全日本トラック協会会長が訴えた「最初で最後のチャンス」
全日本トラック協会会長が訴えた「最初で最後のチャンス」
適正原価制度は運送業界だけの問題ではない。荷主企業とともに考える持続可能な物流の未来
2026年10月15日、広島県福山市で第31回全国トラック運送事業者大会が開催されました。
全国から1,100人余りの運送事業者が集まるなか、全日本トラック協会の寺岡洋一会長は、トラック適正化二法や事業許可更新制度、適正原価制度などに触れ、運送業界が立ち直り、これまでの姿を変える「最初で最後のチャンス」との強い認識を示しました。
日本のトラック運送業界を代表する団体の会長が、ここまで強い言葉で改革の必要性を訴えたことには、大きな意味があります。
それは、単に運送会社の経営や利益を守るためだけではありません。
製造業、卸売業、小売業、建設業、農業など、日本のあらゆる産業を支え、私たちの暮らしに欠かせない物流を、未来へ引き継いでいくための問題だからです。
燃料費や人件費の上昇、ドライバー不足、多重下請け構造、そして2030年度に向けた輸送力不足への懸念。
こうした課題は、もはや運送業界だけで解決できる問題ではありません。
荷主企業と運送会社が互いの立場を理解し、ともに物流の未来を考え、行動する時期を迎えています。
第1章 なぜ「最初で最後のチャンス」とまで訴えたのか
日本のトラック運送業界では、長年にわたり、厳しい運賃競争や人手不足、燃料費・車両価格の上昇、多重下請け構造など、さまざまな問題が積み重なってきました。
運送会社が安全で安定した輸送を続けるためには、ドライバーの賃金、燃料費、車両購入費、整備費、保険料、安全対策費などを確保する必要があります。
しかし、必要な輸送原価を十分に回収できなければ、経営を維持するための余力は次第に失われていきます。
ドライバーの待遇改善や車両更新が難しくなり、新しい人材の採用や育成にも影響します。
こうした状況が続けば、将来的に輸送を担う運送会社が減少し、必要な輸送能力を維持できなくなるおそれがあります。
今回、寺岡会長が「最初で最後のチャンス」と表現したことは、単なる運賃引き上げの必要性を訴えたものではなく、長年続いてきた運送業界の取引構造や経営環境を見直す重要な機会として、制度改革を捉えていることを示しています。
全日本トラック協会の会長が、業界の将来についてここまで強い言葉を用いた背景には、今こそ改革を実効性のあるものにしなければならないという危機感があるのではないでしょうか。
同大会では、適正原価制度と許可更新制度への適切な対応、荷主への価格転嫁による適正な運賃・料金の収受などを盛り込んだ8項目の決議も採択されました。
業界全体として、従来の取引慣行を見直し、持続可能な物流を実現する必要性が改めて示されたのです。
第2章 適正原価制度とトラック適正化二法は何を変えるのか
2025年6月11日、トラック適正化二法が公布されました。
この法改正は、トラックドライバーの適切な賃金の確保や運送業界の健全化を進め、日本の物流の持続可能性を確保することを目的としています。
主な制度には、次のようなものがあります。
1.トラック運送事業の許可について、5年ごとの更新制度を導入する。
2.国土交通大臣が定める「適正原価」を下回る運賃・料金について、制限を設ける。
3.運送の委託段階を2次までに抑えるための努力義務を設ける。
4.違法な白トラックによる有償運送を利用した荷主等への規制を強化する。
5.貨物利用運送事業者に対する書面交付義務や実運送体制管理簿の作成義務などを拡充する。
このうち、委託次数の制限に係る努力義務、違法な白トラック利用への規制強化、貨物利用運送事業者への書面交付義務等の適用は、2026年4月1日に施行されています。
一方、事業許可更新制度と適正原価制度は、公布後3年以内、すなわち2028年6月までの施行に向けて準備が進められています。
適正原価制度では、国土交通大臣が定める適正原価が告示された場合、運送事業者が自ら引き受ける運送や、他の運送事業者へ委託する運送について、運賃・料金が適正原価を下回らないようにする義務が設けられます。
また、許可更新制度では、輸送の安全確保、法令遵守、労働者の適切な処遇なども重要な審査事項となります。
ただし、2026年10月現在、適正原価の具体的な設定方法や制度の詳細については、有識者検討会で議論が続いています。
適正原価制度は、すべての運送会社の運賃を一律にするというものではありません。
輸送距離、車種、積載量、作業内容、運行条件などによって、必要な費用は異なります。
重要なのは、運送会社が輸送に必要な原価を把握し、適正な運賃を提示できることです。
そして、荷主企業と運送会社が合理的な条件で協議し、実際に輸送を担う運送会社にも適正な対価が届く取引環境を整えることが求められています。
第3章 国土交通大臣も施行期限の猶予は難しいとの認識
2026年10月13日の記者会見で、井林辰憲国土交通大臣は、適正原価制度の導入時期について質問を受けました。
10月8日に新聞・出版関係の業界団体から制度設計や運用について要望が出されたことを説明したうえで、法律で定められた施行期限について、猶予期間の設定は難しいとの認識を示しました。
一方で、施行までの期間を活用して、制度の段階的な導入を検討していることも明らかにしています。
国土交通省は、荷主を含む幅広い関係者の意見を聞きながら、制度設計を進める方針です。
この発言からも、適正原価制度は、具体的な運用方法を検討しながら、法律に定められた期限に向けて準備が進められていることが分かります。
荷主企業にとっても、運送会社にとっても、制度が施行されてから対応を考えるのではなく、今から物流費や取引条件について話し合うことが重要です。
制度への対応を単なるコスト増加の問題として捉えるのではなく、将来の輸送を安定して確保するための取り組みとして考える必要があるのではないでしょうか。
第4章 物流が止まれば、荷主企業にも大きな影響が及ぶ
物流は、運送会社だけで成立するものではありません。
工場で必要な原材料や部品を運ぶこと。
製造した商品を販売先へ届けること。
スーパーマーケットや小売店へ商品を補充すること。
建設現場へ資材を運ぶこと。
農産物や食品を消費地へ届けること。
こうした日々の活動は、輸送を担う運送会社とドライバーによって支えられています。
もし、必要なときにトラックを確保できなくなったら、どうなるでしょうか。
製造業では、部品の到着が遅れ、生産計画に影響する可能性があります。
小売業では、商品の補充が間に合わず、販売機会を失うことも考えられます。
建設業では、資材の配送が遅れ、工事の進行に影響するかもしれません。
食品産業では、必要な時期に輸送できなければ、鮮度や商品価値に影響する可能性があります。
物流は、企業活動を支える重要な社会インフラです。
運送会社が持続できなくなることは、荷主企業の事業活動にも影響する問題なのです。
だからこそ、適正原価制度を運送業界だけの問題として考えるのではなく、荷主企業も含めた共通の課題として捉える必要があります。
第5章 2030年度には最大約25%の輸送力不足も
国土交通省が2026年3月3日に公表した「2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会」の提言概要では、2030年度に向けたトラック輸送力の需給見通しが示されました。
十分な対策を講じなかった場合、平均的な想定では約7%(約1.7億トン)、輸送需要が2019年度と同程度の水準となる想定では最大約25%(約7.2億トン)の輸送力不足が生じる可能性があるとされています。
また、2024年度ベースの需要を想定した場合は、約15%(約3.8億トン)の不足が試算されています。
これらは一定の条件に基づく推計であり、将来の輸送力不足が確定したという意味ではありません。
なお、今回の全国トラック運送事業者大会では、中国トラック協会の小丸成洋会長も、2030年に輸送能力が3割程度不足するとの見通しに言及しました。
推計には前提条件や算定時点の違いがありますが、いずれも将来の輸送力確保が重要な課題であることを示しています。
政府は、2026年3月31日に「総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)」を閣議決定しました。
2030年度までを物流革新の集中改革期間と位置付け、物流効率化、取引慣行の見直し、労働環境の改善、物流DXなどを推進する方針です。
今後の物流では、単にトラックの台数を増やすだけではなく、限られた輸送力をいかに有効に活用するかが重要になります。
荷主企業と運送会社が協力し、荷待ち時間の短縮や積載効率の向上、計画的な輸送手配に取り組むことが、将来の安定輸送を支えることにつながります。
第6章 荷主企業にも求められる物流改革への協力
物流改革は、運送会社だけが努力すれば実現できるものではありません。
荷主企業の理解と協力が欠かせません。
2025年4月から、物流効率化法に基づき、すべての荷主に対して、積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮などの努力義務が課されています。
さらに2026年4月からは、年間取扱貨物重量9万トン以上などの基準に該当し、特定荷主に指定された事業者に対して、中長期計画の作成、定期報告、物流統括管理者(CLO)の選任などが義務付けられました。
荷主には、主に運送契約を締結する第一種荷主と、主に貨物の受け渡しを行う第二種荷主があり、特定荷主の指定に関する貨物重量は、それぞれの区分で判定されます。
これらの制度からも、物流の課題を荷主企業と運送会社が共同で解決する方向へ進んでいることが分かります。
例えば、荷主企業には次のような取り組みが考えられます。
・出荷予定を早めに共有し、十分なトラック手配時間を確保する。
・荷待ち時間を短縮し、ドライバーの拘束時間を減らす。
・納品時間や配送条件を見直し、無理のない運行計画を可能にする。
・パレットなどを活用し、積み降ろし作業を効率化する。
・運送会社と輸送費用について協議し、適正な運賃を検討する。
荷主企業にも原材料費、人件費、エネルギー価格の上昇など、厳しい経営事情があります。
そのため、一方的な運賃の値上げや値下げではなく、お互いの事情を理解しながら、合理的な輸送条件を考えることが重要です。
物流費を単に削減すべき費用として見るのではなく、安定した事業活動を続けるための必要な投資として捉える視点も求められています。
第7章 運送会社自身にも必要な経営改革
適正原価制度が導入されたからといって、運送会社の経営が自動的に改善するわけではありません。
運送会社自身にも、原価管理と生産性向上への取り組みが必要です。
燃料費や人件費、車両維持費などを正確に把握し、輸送原価を踏まえた運賃を提示すること。
効率的な配車によって無駄な空車走行を削減すること。
帰り荷を確保し、往復での輸送効率を高めること。
荷主企業と協力して積載効率や運行条件を改善すること。
物流DXや物流マッチングなどの仕組みを活用し、限られた輸送力を有効に活用すること。
これらは、将来に向けて重要な経営課題となります。
荷主企業の側でも、輸送日程や配送条件の調整、帰り便の活用、計画的なトラック手配などによって、物流効率化に貢献することができます。
大切なのは、安い運賃だけを追い求めることでも、運賃を引き上げることだけを目的とすることでもありません。
適正な輸送原価を確保しながら、安全性、輸送品質、生産性を高めることです。
荷主企業と運送会社が互いに協力することで、適正な運賃と物流効率化の両立を目指すことができます。
第8章 災害時にも物流を止めないために
今回の全国トラック運送事業者大会では、寺岡会長が豪雨災害などの自然災害に言及し、熊本での震災対応にも触れました。
過去の災害対応で得られた経験を踏まえ、災害対策を改めて見直すとともに、物流事業者としてどのような支援ができるのか、そのための制度設計を進める必要性を訴えました。
地震や豪雨などの災害が発生した際、被災地へ食料、飲料水、医薬品、生活物資などを届けるためには、ドライバーとトラック、そして物流ネットワークが必要です。
普段から運送会社が安定した経営を続け、人材や車両、安全管理体制を維持することは、災害時の輸送力確保にもつながります。
物流は企業の利益を支えるだけではありません。
国民の暮らしや社会の安全を守る重要なインフラでもあります。
だからこそ、物流の持続可能性を社会全体で考える必要があるのです。
第9章 「最初で最後のチャンス」を未来の物流につなぐ
全日本トラック協会の寺岡会長が語った「最初で最後のチャンス」。
この言葉を、単なる運送業界への警鐘として受け止めるだけでは、十分ではないのではないでしょうか。
大切なのは、制度をつくることだけではなく、それを実際の物流現場で機能させることです。
運送会社が適正な対価を受け取り、安全で安定した輸送を続けられること。
荷主企業が安心して輸送を依頼し、事業を継続できること。
ドライバーが働きがいを持ち、将来に希望を持って仕事を続けられること。
そして次の世代にも、必要なものが必要な場所へ届く社会を残していくこと。
これらが実現して初めて、今回の制度改革が本当の意味を持つのではないでしょうか。
運送会社が持続できることは、荷主企業の事業を守ることでもあります。
荷主企業の事業が発展することは、運送会社の未来を支えることにもつながります。
どちらか一方が負担を抱え続ける関係では、持続可能な物流は実現できません。
これから必要なのは、運送会社と荷主企業が対立することではなく、双方が互いの立場を理解し、共通の課題に向き合うことです。
適正原価制度は、運送業界だけの問題ではありません。
日本の産業と国民生活を支える物流の未来に関わる制度です。
丸共協同株式会社も、荷主様と運送会社様との信頼関係を大切にしながら、適正な取引、安全で安定した輸送、物流効率化に取り組んでまいります。
物流の価値を正しく理解し、互いに協力し、未来へつないでいくこと。
それこそが、今回の「最初で最後のチャンス」を生かすために、私たちが考え、行動していくべきことではないでしょうか。
物流の未来を守ることは、日本の産業と暮らしの未来を守ることです。
丸共協同株式会社
全国のトラック手配、貸切便、スポット便、帰り便など、輸送に関するご相談を承っております。
輸送計画や物流効率化についても、お気軽にお問い合わせください。
参考資料
1.LOGISTICS TODAY「全ト協会長、適正原価制度『景色変える最後の機会』」2026年10月16日
https://www.logi-today.com/1011675
2.国土交通省「トラック適正化二法について」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000019.html
3.国土交通省「適正原価の設定に向けた有識者検討会」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000020.html
4.国土交通省「井林大臣会見要旨」2026年10月13日
https://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin261013.html
5.国土交通省「2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会 提言概要」2026年3月3日公表
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001984731.pdf
6.国土交通省「総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)」2026年3月31日
https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000998.html
7.経済産業省「荷主向け!物流効率化法の概要」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/logistics_efficiency/bukkouhougaiyou.html
8.衆議院「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案要綱」
https://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g21705033.htm
