航空貨物が伸びても専用機の採算が合わない理由
日本通運の航空輸出は28%増、ヤマト・JALは貨物専用機終了へ
航空貨物が伸びても専用機の採算が合わない理由
冒頭要約
日本通運株式会社の2026年8月の日本発航空輸出混載重量は、前年同月比28.0%増の1万9,579トンとなりました。前年実績を上回るのは8か月連続です。
一方、ヤマトホールディングスとJALは、国内線貨物専用機の運航を2027年6月までをめどに終了する方針を発表しています。
「航空貨物が増えているのに、なぜ貨物専用機を終了するのか」
この二つのニュースは、一見すると矛盾しているように見えます。しかし、対象となる市場と事業構造を分けて見ると、矛盾ではありません。
日本通運が伸ばしているのは、主に国際航空輸出の混載貨物です。一方、終了するのは、ヤマトとJALが連携して運航してきた国内線の貨物専用機です。
物流事業では、「荷物があること」と「適正な利益を確保しながら持続的に運べること」は、同じではありません。
目次
- 日本通運の2026年8月実績
- 1万9,579トンと2万4,997の違い
- 1~8月累計の確認
- ヤマト・JALの国内線貨物専用機終了
- JALの国際貨物と国内貨物の違い
- 貨物が増えても専用機の採算が合わない理由
- トラック輸送にも共通する課題
- 丸共協同株式会社が考える持続可能な物流
- FAQ
- まとめ
1.日本通運の2026年8月実績
日本通運株式会社の2026年8月の国際航空貨物取扱実績は、次のとおりです。
| 項目 | 2026年8月 | 前年同月比 | 2026年1~8月 |
|---|---|---|---|
| 日本発・航空輸出混載重量 | 1万9,579トン | 28.0%増 | 14万9,275トン |
| 日本着・輸入通関件数 | 2万9,936件 | 11.2%増 | 24万3,633件 |
航空輸出混載重量は、前年実績を8か月連続で上回りました。6月以降は、3か月連続で25%を超える伸びとなっています。
日本海事新聞によると、8月はアジア向けが2割半ば増、米州向けが7割近く増加しました。特に米国向けの自動車関連スポット貨物が伸びています。一方、欧州向けは1桁減となっており、すべての地域が均等に伸びたわけではありません。
アジアと米州向けの貨物が、全体を押し上げた結果と考えられます。
なお、輸出は「重量」、輸入は「通関件数」で公表されています。単位が異なるため、輸出と輸入の規模を直接比較することはできません。
2.1万9,579トンと2万4,997の違い
NXHDの公式サイトには、同じ2026年8月の日本発実績として、次の二つの数字が掲載されています。
| 公式データ | 集計対象 | 2026年8月 | 前年8月 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 日本通運 国際航空貨物取扱実績 | 日本通運株式会社 | 1万9,579トン | 1万5,298トン | 128.0% |
| NXHD 国際航空貨物取扱実績 | NXグループ日本発連結合計 | 2万4,997・チャージャブルウェイト | 1万9,530 | 128.0% |
結論として、どちらの数字も正しいものです。
1万9,579トンは日本通運株式会社の取扱実績です。
これに対して2万4,997は、NXグループの日本発連結合計であり、日本通運以外の連結対象を含む、より広い集計範囲です。
NXHDの公式ページにも、「日本合計は、連結計の取扱い数量」と記載されています。
発表元のウェブサイトが同じでも、対象となる会社の範囲が異なります。したがって、1万9,579トンを2万4,997へ訂正する必要はありません。
前年比がどちらも28.0%となったのは、それぞれの前年実績に対する増加率が、四捨五入後に同じ28.0%になったためです。
3.1~8月累計の確認
日本通運株式会社の2026年1~8月累計は、14万9,275トンです。
前年同期は13万1,146トンでした。
計算すると、次のようになります。
- 増加量:14万9,275トン-13万1,146トン=1万8,129トン
- 増加率:1万8,129トン÷13万1,146トン=約13.8%
したがって、「1~8月累計は前年同期比13.8%増」という記事の計算は正確です。
なお、公式ページの月別数値を単純合計すると14万9,274トンになりますが、公式累計は14万9,275トンです。
公式資料には、月別実績について「小数点第一位を四捨五入」と記載されています。月別数値を丸めたことによる1トンの差であり、誤りではありません。
4.ヤマト・JALの国内線貨物専用機終了
ヤマトホールディングスとJALは、国内線貨物専用機の運航を2027年6月までをめどに終了する方針です。
この取り組みは、トラックドライバーの時間外労働規制が強化された物流の2024年問題への対応として、2024年4月に始まりました。
ところが、円安や航空燃料価格の上昇などによって航空輸送コストが増加し、トラック輸送との価格差が当初の想定より拡大しました。
運航終了後は、旅客便の床下貨物室などを活用し、輸送体制を再構築する方針です。
これは航空貨物需要がなくなったことによる終了ではありません。国内線貨物専用機という運び方について、コストと採算の両立が難しくなったことが主な理由です。
5.JALの国際貨物と国内貨物の違い
JALグループの2026年7月の貨物輸送実績は、国際貨物と国内貨物で異なる動きを示しています。
| JALグループ貨物実績 | 2026年7月 | 前年同月比 | 2026年4~7月 |
|---|---|---|---|
| 国際貨物 | 5万3,745トン | 2.3%増 | 21万1,360トン・9.0%増 |
| 国内貨物 | 2万8,683トン | 6.9%減 | 10万3,486トン・6.3%減 |
国際貨物は増加していますが、国内貨物は前年を下回っています。
ただし、JALの国内貨物実績は、JAL、J-AIR、JAC、HAC、JTA、RACを対象とした集計です。ヤマトの貨物専用機を運航しているスプリング・ジャパンは、この国内貨物実績の集計対象に含まれていません。
そのため、JALの国内貨物減少を、ヤマト向け貨物専用機終了の直接的な根拠として扱うことはできません。国内航空貨物全体の参考動向として見る必要があります。
また、JALが航空貨物事業全体から撤退するわけではありません。
JALは2026年7月、国際線貨物専用機の路線計画を変更し、成田-天津線を週5便に増便しました。国際貨物では、貨物専用機と旅客便の床下貨物室を組み合わせた輸送を続けています。
6.貨物が増えても専用機の採算が合わない理由
航空貨物の取扱量が増加しても、貨物専用機の利益が増えるとは限りません。
日本通運は航空貨物フォワーダーとして、複数の荷主企業から貨物を集め、混載したうえで、航空会社の輸送スペースを利用します。
需要や目的地、納期、運賃に応じて利用する便を選択できるため、自社で特定の航空機を毎日運航する場合とは、固定費の構造が異なります。
一方、貨物専用機には次のような費用が発生します。
- 航空燃料費
- 機体の調達・リース費
- 乗務員の人件費
- 整備費
- 空港使用料
- 地上荷役費
- 保険料
- 運航管理費
貨物量が少ない日でも、多くの固定費は発生します。
また、行きの便に十分な貨物があっても、帰りの便に貨物が集まらなければ、往復全体の稼働率と採算は悪化します。
つまり、重要なのは単純な貨物量ではなく、次の条件です。
- 往路と復路の貨物量
- 路線ごとの需要密度
- 1便当たりの積載状況
- 荷主企業が負担できる運賃
- 燃料費や為替の変動
- トラック、船舶、鉄道との価格差
- 他の貨物との混載可能性
「荷物がある」だけでは、持続可能な輸送事業にはなりません。
7.トラック輸送にも共通する課題
この問題は、航空輸送だけの話ではありません。
トラック輸送でも、行きの荷物は確保できても、帰り荷が見つからなければ空車回送が発生します。
荷物の量が増えても、運賃に次の費用が適切に反映されなければ、運送会社の経営基盤は強くなりません。
- 燃料費
- 高速道路料金
- ドライバーの人件費
- 車両購入費
- 整備費
- 荷待ち時間
- 荷役作業
- 空車回送
- 安全管理費
- 保険料
物量の増加と、運送会社の利益増加は同じではありません。
荷物を確保するだけでなく、帰り荷との組み合わせ、積載状況、運行時間、待機時間、運賃を含めて、一つの運行全体で考える必要があります。
8.丸共協同株式会社が考える持続可能な物流
今回の日本通運とヤマト・JALの動きから学べるのは、大規模な輸送手段を持つことだけが、物流の強さではないということです。
必要なのは、貨物量、車両、運賃、時間、方向、地域を結び付け、限られた輸送力を無駄なく活用する仕組みです。
丸共協同株式会社は1982年の創業以来、荷主企業と運送会社の間に立ち、配車、帰り便・帰り荷、チャーター便、スポット便などのトラック手配に向き合ってきました。
これからの物流には、長年の経験や信頼を守る「不易」と、デジタル技術や情報共有を取り入れる「流行」の両方が必要です。
荷主企業だけが得をする仕組みでも、運送会社だけに負担を求める仕組みでも、持続可能な物流にはなりません。
荷主企業、運送会社、社会の三者にとって価値のある「三方よし」に、将来の輸送力や環境、安全まで考える「未来よし」を加えることが重要です。
9.FAQ
Q1.日本通運の8月実績は1万9,579トンと2万4,997のどちらが正しいですか?
どちらも正しい数字です。1万9,579トンは日本通運株式会社の実績、2万4,997はNXグループの日本発連結合計です。集計対象が異なります。
Q2.航空貨物が増えているのに、なぜヤマト・JALは貨物専用機を終了するのですか?
国際航空輸出の需要増加と、国内線貨物専用機の採算は別の問題だからです。専用機は燃料費、機体費、乗務員費、整備費などの固定費が大きく、往復の貨物量や運賃が十分でなければ、荷物があっても利益を確保できません。
Q3.JALは貨物専用機事業から撤退するのですか?
JALの貨物事業全体が終了するわけではありません。終了予定なのは、ヤマトと連携した国内線貨物専用機の運航です。JALは国際線貨物専用機や旅客便の床下貨物室を活用した国際貨物輸送を継続しています。
Q4.この問題はトラック輸送にも関係しますか?
関係します。トラック輸送でも、帰り荷が見つからない空車回送、荷待ち時間、燃料費、人件費などを運賃に反映できなければ、物量が増えても運送会社の利益は増えません。輸送量だけでなく、運行全体の効率と適正な運賃が重要です。
10.まとめ
日本通運株式会社の2026年8月の日本発航空輸出混載重量は、前年同月比28.0%増の1万9,579トンでした。
NXグループ連結の日本発合計は2万4,997ですが、これは集計範囲が異なるためであり、1万9,579トンという記事の数字は正確です。
一方、ヤマトとJALが終了するのは、国内線貨物専用機の運航です。国際航空貨物の需要が伸びていることと、国内専用機の採算が悪化していることは、同時に起こり得ます。
今回のニュースが示しているのは、「需要があること」と「持続可能な価格で運べること」は別問題だという現実です。
航空、トラック、船舶、鉄道のいずれにおいても、これから重要になるのは、単純に輸送力を増やすことではありません。
限られた輸送力をどのように組み合わせ、帰り便・帰り荷を確保し、荷主企業と運送会社の双方が継続できる適正な取引をつくるか。
物量だけではなく、物流全体の効率と持続可能性を考える時代に入っています。
