2026年7月貿易統計から見る物流への影響
2026.08.28
コラム
― 原油高・円安とAI・半導体需要。「何が運ばれるか」と「いくらで運べるか」を考える ―
2026年7月の日本の貿易統計では、輸出額が前年同月比23.2%増、輸入額が27.8%増となり、貿易収支は6,345億円の赤字となりました。
輸出が大きく伸びた一方で、輸入額はそれ以上に増え、貿易収支は3カ月連続の赤字となっています。
輸出では半導体等電子部品などが伸び、輸入では原油価格の上昇や円安、中東情勢を背景としたエネルギー調達の変化が大きく影響しました。
財務省によると、7月の税関長公示レートの平均は1ドル161.83円で、前年同月より11.2%の円安となっています。
物流業界の立場から今回の数字を見ると、大切なのは「輸出が増えた」「貿易赤字になった」という結果だけではありません。
これから何が運ばれるのか。
そして、その荷物をいくらで運べるのか。
物流需要と物流コストの両方を見ることが、これまで以上に重要になってきています。
今回は財務省が公表した2026年7月の貿易統計をもとに、その数字の先にある物流への影響について考えてみます。
2026年7月の貿易統計を整理すると
財務省が2026年8月20日に公表した7月分の貿易統計速報では、次のような結果となりました。
項目 2026年7月 前年同月比
輸出額 約11兆5,118億円 +23.2%
輸入額 約12兆1,463億円 +27.8%
貿易収支 ▲6,345億円 3カ月連続赤字
半導体等電子部品・輸出額 ― +49.1%
原粗油・輸入額 ― +87.8%
為替レート 平均 1ドル161.83円 11.2%の円安
特に注目したいのが、原油です。
原粗油の輸入量は前年同月比5.5%増でしたが、輸入金額は87.8%増となりました。
つまり、単純に原油を多く輸入したことで輸入額が増えたわけではありません。
原油価格の上昇や円安、さらに調達先の変化などが重なり、日本がエネルギーを調達するための負担が大きくなっていることが分かります。
物流を見る場合も、「どれだけ荷物が動いているか」だけではなく、「その荷物やエネルギーをいくらで調達しているのか」まで見る必要があります。
輸出が増えても、物流会社の経営が楽になるとは限らない
輸出額が23.2%増えたことは、日本の産業にとって明るい材料の一つです。
海外向けの生産が増えれば、原材料や部品を工場へ運ぶ物流が発生します。
完成した製品を物流センターや港湾、空港へ運ぶ輸送も必要になります。
輸出産業が活発になることは、国内物流の需要にもつながります。
しかし、運送会社様の経営を考えると、「荷物が増えること」と「利益が増えること」は同じではありません。
トラックを走らせるには燃料が必要です。
さらに、人件費、車両費、修繕費、タイヤ、高速道路料金、保険料など、さまざまな費用が発生します。
荷物が増えて売上が伸びても、それ以上に輸送原価が上昇すれば、利益は残りにくくなります。
だからこそ、これからの物流では、
「荷物があるか」
だけを見るのではなく、
「適正な原価と運賃で運べるか」
まで考えることが重要になってきます。
半導体等電子部品の輸出額は49.1%増
今回の輸出統計でもう一つ注目したいのが、半導体関連です。
財務省の2026年7月分貿易統計では、半導体等電子部品の輸出額が前年同月比49.1%増となりました。財務省の速報概要に「伸率(金額)」として明記されています。
また、世界的なAI関連データセンターへの投資を背景に、半導体関連需要が強まっていることも報じられています。
AIというと、ソフトウェアやインターネットの世界を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、AIを動かすためには現実の設備が必要です。
データセンターには半導体やサーバーだけではなく、電源設備、冷却設備、通信設備などが必要になります。
施設を建設するための資材も必要です。
そして、それらを製造する場所から使用する場所まで運ぶ物流があります。
つまりAIの成長は、「物流を効率化する技術」という側面だけではありません。
AI産業そのものが、新しい荷物や輸送需要を生み出していく可能性があります。
物流会社としては、
「AIを物流にどう活用するか」
だけではなく、
「AIの成長によって、これから何が運ばれるのか」
という視点から見ることも大切になってくるのではないでしょうか。
原油輸入から見える調達先の変化
今回の貿易統計では、原油の調達にも大きな変化が表れています。
財務省の速報概要では、米国からの原粗油の輸入金額が前年同月比1,489.2%増となっています。
ここで注意したいのは、1,489.2%という数字は「輸入量」ではなく「輸入金額」の伸び率だということです。
報道では、中東情勢による供給の混乱を受け、より高価な米国産原油などによる代替調達が進んだことが、輸入額を押し上げた要因の一つとされています。
資源エネルギー庁によると、2025年の日本の原油輸入に占める中東依存度は94.0%、ホルムズ海峡への依存度は93.0%です。
日本にとって中東は、今も非常に重要なエネルギー調達先です。
だからこそ、中東情勢の変化は決して遠い地域だけの問題ではありません。
原油の供給が不安定になる。
調達先が変わる。
原油価格や輸送コストが変化する。
そこに円安の影響も加わる。
そして、その影響が燃料価格などを通じて、日本国内の物流にもつながっていきます。
世界の遠い場所で起きた出来事が、日本国内を走る一台のトラックの原価にも影響する。
現在の物流は、それほど世界経済と密接につながっています。
「どこから仕入れるか」が変われば、物流も変わる
今回の原油輸入の動きから、物流についてもう一つ考えられることがあります。
国際情勢によって企業や国の調達先が変われば、海上輸送の航路や輸送日数、在庫の持ち方なども変化する可能性があります。
その先では、港湾から工場や物流拠点へ向かう国内物流にも影響が及ぶかもしれません。
もちろん、今回の貿易統計だけを見て「国内の物流ルートが変わった」と断定することはできません。
しかし、これからの物流では、荷物が発生してから車両を探すだけではなく、
なぜ、この荷物が動いているのか。
どこから物が入ってきているのか。
これから、どの地域や産業で荷物が増える可能性があるのか。
その少し先まで見ることが、ますます大切になってくると思います。
原油価格は変えられなくても、物流の無駄は減らせる
世界情勢や原油価格、為替を、荷主様や運送会社様が直接変えることはできません。
しかし、物流の中でできることはあります。
その一つが、情報を少し早く共有することです。
例えば、荷主様から来週や来月の輸送予定を少し早く共有していただければ、運送会社様は車両を準備する時間を確保しやすくなります。
運送会社様も空車予定を早めに共有することで、その車両に合った荷物を探す時間が増えます。
地方行きの輸送が決まった段階から帰り荷を探すことができれば、空車で戻る距離を減らせる可能性があります。
空車走行が減れば、その分だけ燃料をより有効に使うことができます。
これは運送会社様の原価削減だけの話ではありません。
物流全体の効率が高まれば、荷主様にとっても将来的な輸送コストの安定につながります。
原油価格が上昇したから、運送会社様だけがその負担を抱える。
反対に、物流費を抑えるために運賃だけを下げる。
そのどちらでも、持続可能な物流にはなりません。
適正な運賃を守ること。
その一方で、物流の中に残っている無駄を減らすこと。
この二つを一緒に考えていくことが、これからの物流には必要だと私たちは考えています。
丸共協同株式会社が考えるこれからの物流
貿易統計を見る意味は、過去の数字を知ることだけではありません。
どの産業が伸びているのか。
どこから物が入ってきているのか。
燃料や輸送原価にどのような変化が起きているのか。
その数字の先で、これからどのような荷物が動くのかを考える材料にもなります。
世界情勢や原油価格を私たちが変えることはできません。
しかし、変化を少し早く知り、荷主様と運送会社様が情報を共有し、物流の中にある無駄を一つずつ減らしていくことはできます。
丸共協同株式会社は、これからも日々の輸送だけではなく、経済、産業、エネルギー、人口、技術など、その少し先にある変化にも目を向けながら、物流の未来について考え、情報を発信してまいります。
貿易統計と物流について、もう少し考えてみます
貿易統計を見ると、これからの物流需要まで分かるのでしょうか
貿易統計だけで将来の物流需要を正確に予測することはできません。
しかし、どの産業の輸出入が伸びているのか、原材料やエネルギーの調達がどのように変化しているのかを見ることで、これから荷物が増える可能性のある分野を考える材料になります。
物流会社にとって大切なのは、数字そのものだけではなく、「なぜ、その数字が動いたのか」を考えることだと思います。
原油高が続くと、トラック運送にはどのような影響があるのでしょうか
トラック運送では、燃料費は輸送原価を構成する重要な費用です。
原油価格の上昇が軽油価格などに波及すれば、運送会社様の輸送原価にも影響します。
そのため原油価格や為替の動きは、運送会社様だけではなく、物流を利用する荷主様にとっても重要な問題です。
荷主様と運送会社様が今からできることはありますか
大きな設備投資をしなくても、輸送予定や空車予定を少し早く共有することから始められます。
情報を早く共有できれば、車両手配の時間が増え、帰り荷の確保や空車走行の削減につながる可能性があります。
適正な運賃を守りながら物流の無駄を減らすことが、荷主様と運送会社様の双方にとって持続可能な物流につながると考えています。
参考資料・一次情報
財務省「令和8年7月分貿易統計(速報)の概要」2026年8月20日
https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/gaiyo2026_07.pdf
財務省「令和8年7月分貿易統計(速報)主要商品別・地域別資料」
https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2026/2026074.pdf
資源エネルギー庁「エネルギーを巡る最近の動向について」2026年6月
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2026/071/071_004.pdf
参考報道:Reuters「Japan's exports surge on chips demand, imports hit record on oil costs」2026年8月20日
※本記事は2026年8月20日時点で公表されている一次情報および報道をもとに、丸共協同株式会社が物流業界の視点から整理・考察したものです。
