適正原価は全国一律でよいのか?地域差・帰り荷・物価変動から考えるトラック運賃
適正原価は全国一律でよいのか?
― 第2回検討会から考える地域差・物価変動・物流の無駄 ―
2026年8月26日、国土交通省の第2回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」が行われました。
トラックニュースは同日、全日本トラック協会が「地域単位での設定」「物価変動への対応」「水屋の是正指導」などについて意見を提出したと報じています。
国土交通省の開催案内によると、第2回では全日本トラック協会をはじめ、全日本運輸産業労働組合連合会、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国農業協同組合中央会、出版文化産業振興財団の6団体からヒアリングを行い、個別論点について検討する予定とされていました。
今回の議論で注目したいのは、単に「トラック運賃をいくらにするのか」という話ではありません。
地域によって異なる輸送条件をどう原価へ反映するのか。
燃料費や人件費などが変化したとき、適正原価をどう見直すのか。
多重取引の中でも、実際にトラックを走らせる運送会社へ必要な運賃をどう残すのか。
そして、物流効率化によって生まれた効果をどのように評価するのか。
適正原価制度は、物流業界全体に「物流の原価とは何か」を改めて問いかける制度になりそうです。
この記事のポイント
今回、特に考えたいのは次の4点です。
1.適正原価は「全国一律」で考えられるのか
2.適正原価は一度決めれば終わりなのか
3.中間に事業者が入ること自体が問題なのか
4.原価を守りながら物流費を抑えることはできるのか
結論から言えば、私たちはこれからの物流では、
原価を削るのではなく、物流の無駄を減らすこと
が、これまで以上に重要になると考えています。
そもそも「適正原価」とは何か
まず理解しておきたいのが、「適正原価」と「運賃」は同じものではないという点です。
2026年7月17日に開催された第1回検討会で国土交通省が示した資料では、適正原価について、
「貨物自動車運送事業を法令に則って適正に運営するために最低限必要となる原価」
と整理されています。
さらに非常に重要なのが、適正原価には適正な利潤、いわゆる事業報酬を含まないという考え方です。
国土交通省資料では、実際に荷主等から収受すべき運賃・料金については、
適正原価 + 適正な利潤
という水準になることが示されています。
つまり、
「適正原価だけ受け取れば十分」
という制度ではありません。
適正原価は、事業を安全に継続するための最低ラインです。
運送会社が車両を更新し、人材を育成し、安全対策を行い、企業として持続していくためには、その上に適正な利益が必要になります。
この違いは、荷主様にも運送会社様にも非常に重要なポイントだと思います。
適正原価は全国一律でよいのか
今回トラックニュースが報じた全日本トラック協会の意見の一つが、「地域単位での設定」です。
実は、この問題は第1回検討会の段階から国土交通省自身が正式な検討課題として挙げています。
現在の標準的な運賃は、地方運輸局などの10ブロック単位で設定されています。
しかし国交省資料では、例えば同じブロック内でも東京都と山梨県では条件が異なることや、帰り荷への制度適用のあり方も踏まえ、どの地域単位で適正原価を設定するのが適切なのかを検討課題として示しています。
これは物流の現場を考えれば当然の問題でもあります。
トラック輸送では、
・ドライバーの人件費
・車庫や営業所の費用
・高速道路の使用状況
・渋滞
・走行距離
・荷待ち時間
・荷役条件
・地域ごとの貨物量
・復路貨物の確保しやすさ
などによって、実際の原価が変わります。
大阪から東京へ向かう輸送と、大阪から地方都市へ向かう輸送では、たとえ距離が近くても同じ採算になるとは限りません。
特に地方向け輸送では、往路の荷物はあっても復路の荷物が見つからないことがあります。
トラックは帰ってこなければなりません。
帰りが空車であっても、
燃料費も、
高速道路料金も、
ドライバーの拘束時間も、
車両の維持費も発生します。
だからこそ、「地域」という数字だけではなく、その地域における物流需給まで考える必要があります。
国交省資料にも「帰り荷」が登場している
今回の適正原価制度で、私たちが特に注目しているのがこの部分です。
第1回検討会資料では、「適正原価を設定する地域の単位」の検討事項として、明確に**「帰り荷への制度適用のあり方」**が記載されています。
さらに現在の標準的な運賃では、帰り荷がない運送でも原価を確保できるよう、実車率を50%として計算していることも示されています。
今後は、この前提そのものについて、実際の輸送や取引の実態を踏まえて検討する方向です。
これは非常に重要な議論です。
荷主側から見れば「帰り便」。
運送会社側から見れば「帰り荷」。
この情報を早く共有できるかどうかによって、同じトラック一台でも生産性は大きく変わります。
地方行きが決まった時点から帰り荷を探す。
帰り便として利用できる車両情報を早く共有する。
こうした情報のつながりが、これからの適正原価制度とも無関係ではなくなってきたと言えます。
適正原価は一度決めれば終わりではない
もう一つ重要なのが、「物価変動への対応」です。
トラックを動かすために必要なのは軽油だけではありません。
国土交通省が示している適正原価の構成要素案には、
・燃料費
・オイル費
・タイヤ費
・減価償却費
・人件費
・社会保険料・福利厚生費
・公租公課
・車検・修理費
・借入金利息
・安全確保のための費用
・事業継続に必要な投資の原資
など、幅広い費用が挙げられています。
これらは毎年同じ金額ではありません。
燃料価格が上がる。
ドライバーの賃金が上がる。
トラックの車両価格が上がる。
タイヤや部品、整備費用も上がる。
そうなれば当然、物流の原価も変化します。
国交省も第1回検討会資料で「物価変動への対応・改定の頻度」を正式な論点として掲げ、物価変動をタイムリーに反映する制度をどのように設計するか検討する必要があるとしています。
したがって、
適正原価はいくらなのか
だけではなく、
適正原価をいつ、何を基準に見直すのか
まで制度として考える必要があります。
「水屋」という言葉だけで判断しない
今回の報道では、全日本トラック協会から「水屋の是正指導」という意見が出されたとされています。
物流業界で使われる「水屋」という言葉は、多重取引の中間に入って仕事を取り次ぐ事業者などを指して使われる俗称ですが、この問題は慎重に考える必要があります。
貨物利用運送や運送の手配そのものが問題なのではありません。
荷主と運送会社をつなぐ。
必要な車両を探す。
配車を調整する。
輸送条件を確認する。
書類を処理する。
事故や車両故障などが発生した際に代替輸送を探す。
こうした業務には当然、人件費もシステム費も企業としての管理コストも発生します。
実際、国土交通省が示した適正原価の構成要素案にも、**「委託手数料(利用運送手数料)」**が明確に含まれています。
つまり、制度上も「中間に手数料が存在すること自体」を否定しているわけではありません。
問題になるのは、
誰が、どのような仕事をして、その対価としていくら受け取っているのかが分からない状態
ではないでしょうか。
問題は中間マージンではなく「不透明な多重構造」
国土交通省は以前から、トラック運送業の多重下請構造について実態調査を行っています。
その調査では、他の運送会社へ依頼する際に運賃の5~10%程度を手数料として差し引く例や、トラブル対応や伝票処理などの業務があるため一定の手数料は必要との回答がある一方、元の運賃額が分からないまま取引されている事例なども確認されています。
ここに問題の本質があると思います。
一社が営業し、
一社が配車し、
一社が輸送調整し、
最後に別の運送会社が実際に走る。
それぞれが必要な仕事をしているのであれば、それぞれに適正な対価が必要です。
しかし、何段階にも再委託される中で金額だけが差し引かれ、最後に実際にトラックを走らせる会社へ必要な原価すら残らないのであれば、持続可能な物流とは言えません。
第1回検討会資料でも、
多重取引構造の末端にいる実運送事業者について、委託手数料を含めても適正原価を下回らない運賃・料金をどう確保するか
が正式な検討論点として示されています。
ですから、これから求められるのは、
中間機能をなくすことではなく、中間機能の価値と対価を分かりやすくすること
だと私たちは考えています。
適正原価と物流効率化は対立しない
ここでもう一つ重要な論点があります。
「適正原価を守れば物流費が上がる」
そのように考える荷主様もいらっしゃるかもしれません。
しかし、適正原価を守ることと物流効率化は、本来対立するものではありません。
国土交通省の第1回検討会資料にも、
物流効率化によるコスト削減が、適正原価の算出において適切に評価される仕組み
を検討する必要があると明記されています。
例えば、片道500kmの輸送を考えてみます。
往路500kmは荷物を積んでいても、帰り500kmが空車であれば、トラックは合計1,000km走っています。
一方で、地方行きが決まった段階から帰り荷を探し、復路にも荷物を積むことができれば、同じ車両、同じドライバー、同じ往復距離でも生産性は大きく変わります。
ほかにも、
荷待ち時間を短縮する。
荷役作業を見直す。
積載率を高める。
共同配送を利用する。
輸送予定を早く共有する。
こうした改善によって、運送会社の必要な利益を削ることなく物流コストを改善できる可能性があります。
だからこそ、これから大切になるのは、
原価を削るのではなく、無駄を削ること
なのです。
「安く運ぶ」から「無駄なく適正に運ぶ」へ
これまで運賃交渉では、
「あといくら安くできますか」
という話になりがちでした。
しかし、これからは物流の話し合いそのものが変わっていく必要があります。
「なぜこの運賃になるのか」
「どの費用が上がっているのか」
「どこに無駄があるのか」
「荷待ちは減らせないか」
「附帯業務を見直せないか」
「帰り便・帰り荷を組み合わせられないか」
「もう少し早く輸送予定を共有できないか」
こうした話を、荷主様と運送会社様が数字を見ながら行う。
それが、適正原価制度が目指す物流の一つの姿ではないでしょうか。
適正原価は「数字を決める制度」だけではない
改正トラック法による適正原価の規定は、2025年6月11日の法律公布から3年以内、つまり2028年6月までに施行される枠組みとなっています。具体的な施行日は政令で定められます。
まだ制度の詳細は決まっていません。
地域をどの単位で設定するのか。
物価変動をどのように反映するのか。
車種・車格をどう区分するのか。
帰り荷をどのように考えるのか。
多重取引の中で実運送会社へどう適正な運賃を残すのか。
これから検討される事項は多くあります。
しかし、今から始められることがあります。
それは、
自社の物流を数字で知ることです。
何km走っているのか。
何時間拘束されているのか。
何時間荷待ちしているのか。
どの程度空車で走っているのか。
燃料費はいくらなのか。
車両費はいくらなのか。
一運行に本当はいくらかかっているのか。
国土交通省の第1回検討会では、将来の適正原価について、総走行距離や総稼働時間などを入力して算出する「算定式」を示す方向性も提示されています。
これからの物流経営では、感覚だけではなくデータで原価を説明できることが、ますます重要になるでしょう。
丸共協同株式会社が考えるこれからの物流
私たちは、これからの物流に必要なのは、単純な値上げでも、単純な値下げでもないと考えています。
必要なのは、
物流に関する情報を早く共有し、その情報を次の物流判断につなげることです。
荷主様から輸送予定が少し早く共有される。
運送会社様から車両予定が少し早く共有される。
地方行きが決まった時点から帰り荷を探す。
荷待ち時間や走行距離、輸送原価を数字として残す。
その一つひとつの情報がつながれば、空車走行や待機時間といった物流の無駄を減らすことができます。
そして、
運送会社様が適正な原価と利益を確保しながら、荷主様の物流費についても効率化を目指す。
これが持続可能な物流につながると考えています。
適正原価制度を、
「運賃を上げるためだけの制度」
として見るのではなく、
物流の原価と無駄を、荷主様と運送会社様が一緒に考えるきっかけ
として捉えること。
これからの物流業界には、その視点が必要なのではないでしょうか。
参考資料
国土交通省「第2回『適正原価の設定に向けた有識者検討会』を開催します」
国土交通省「適正原価の設定に向けた有識者検討会」第1回配布資料・資料4「適正原価の設定に向けた論点提示」
国土交通省「トラック適正化二法について」
国土交通省「多重下請構造の実態調査の結果等」
トラックニュース「全日本トラック協会/適正原価設定の検討会に『地域単位での設定』『物価変動への対応』『水屋の是正指導』など意見提出」(2026年8月26日)
※本稿は2026年8月26日時点で確認できる国土交通省公表資料および報道をもとに作成しています。第2回検討会の配布資料・議事要旨については、国土交通省から後日公表予定とされています。公表後、新たな内容が確認された場合は必要に応じて追記・修正します。
