適正原価制度はどうなる?8月26日第2回検討会の注目点 実車率・物流効率化・帰り荷を解説
2026.08.28
コラム
「適正原価」は次の段階へ
8月26日の第2回検討会で何が議論されるのか
― 運賃だけではなく、物流の仕組みそのものを考える制度へ ―
2026年8月26日、国土交通省は第2回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を開催します。
7月17日に開催された第1回検討会では、「適正原価とは何か」という制度の基本的な考え方や、今後検討すべき論点が示されました。
そして今回の第2回では、全日本トラック協会、日本商工会議所、全国商工会連合会など、運送側・労働側・荷主側を含む関係団体へのヒアリングと、個別論点の検討が予定されています。
制度の骨格を考える段階から、実際の物流現場や取引実態を踏まえて制度を具体化する段階へ。
「適正原価」の議論は、いよいよ次のステージに入ろうとしています。
この記事のポイント
今回、私たちが注目しているのは、単純に「適正原価はいくらになるのか」ということだけではありません。
重要なのは、
「何を原価として認めるのか」
「どのような計算方法になるのか」
「荷主と運送会社の物流効率化をどのように評価するのか」
「帰り便・帰り荷などによる効率化をどう考えるのか」
「実際の取引で制度をどう運用するのか」
という部分です。
適正原価制度は、単なる新しい運賃表ではなく、これからのトラック運送事業の経営や物流取引のあり方に大きく関係する制度になる可能性があります。
1.そもそも「適正原価」とは何か
2025年6月に成立・公布された改正トラック法では、トラック運送事業者が自ら貨物を運送する場合や、他のトラック運送事業者に運送を委託する場合について、国土交通大臣が定める「適正原価」を継続して下回らないようにする仕組みが設けられました。
この規定は、法律の公布から3年以内に施行されることになっています。
ここで注意したいのは、「適正原価」と「標準的運賃」は同じものではないということです。
第1回検討会資料では、適正原価について、
貨物自動車運送事業を法令に則って適正に運営するために最低限必要となる原価
という考え方が示されています。
一方、現在の標準的運賃は、適正な原価に加えて「適正な利潤」を含め、荷主等から収受すべき運賃として示されてきました。
つまり、
適正原価 = 最低限必要となる事業原価
実際に収受すべき運賃 = 適正原価 + 適正な利潤
という整理になります。
「適正原価まで受け取れば十分」という制度ではないことは、今後非常に重要なポイントになると思います。
2.原価には何が含まれるのか
第1回検討会では、適正原価を構成する項目の案もかなり具体的に示されました。
例えば、
- 燃料費
- オイル費
- タイヤ費
- 尿素水費
- 車検・修理費
- 減価償却費
- 人件費
- 社会保険料・福利厚生費
- 公租公課
- 荷役関連費用
- 借入金利息
- 間接費
- 安全確保に必要な経費
- 事業を継続するために必要な投資の原資
さらに運賃とは別に、
- 待機時間料
- 積込料・取卸料
- 附帯業務料
- 委託手数料
- 有料道路利用料
- フェリー利用料などの実費
- 燃料サーチャージ
なども整理されています。
特に注目したいのは、「安全確保のために必要な経費」や「事業を継続して遂行するために必要不可欠な投資の原資」が明確に議論されていることです。
運送会社が車両を維持し、人材を確保し、安全設備を導入し、将来も事業を続けていくには費用がかかります。
目の前の燃料代や人件費だけを払えば物流が維持できるわけではありません。
この考え方が適正原価の中にどこまで反映されるのかは、今後の重要な論点です。
3.「運賃表」ではなく「計算式」になる可能性
もう一つ大きな変化があります。
第1回資料では、現在の標準的運賃のように距離別の運賃表をそのまま示すのではなく、一定期間の総稼働時間や総走行距離などを使って適正原価を計算する「算定式」を示す方向性が検討されています。
イメージとして示されているのは、
適正原価
= 運賃原価
+ 委託手数料
+ 料金原価
+ 燃料サーチャージ
+ 実費
という考え方です。
さらに運賃原価について、
時間当たり固定費 × 総稼働時間
+
キロ当たり変動費 × 総走行距離
という計算方法が示されています。
まだ決定した算定式ではありません。
しかし、この方向で制度が進めば、物流事業者にとって「自社の原価を把握すること」の重要性はこれまで以上に高まります。
何時間車両が動いたのか。
何km走ったのか。
どれだけ待機時間が発生したのか。
どれだけ附帯業務が発生したのか。
どれだけ他社へ運送を委託したのか。
こうした記録そのものが、将来の運賃管理や経営管理につながっていく可能性があります。
4.第2回で注目したい「実車率」
今回、私たちが特に注目しているのが「実車率」です。
第1回検討会資料には非常に重要な記述があります。
適正原価は法的拘束力を持つ制度になるため、現在の標準的運賃で取引実態との著しい乖離を生じさせている前提条件については見直す必要があるのではないか、という考え方です。
その具体例として「実車率」が挙げられています。
これは物流現場にとって非常に大きな意味を持ちます。
トラックは、荷物を積んで走っている時間だけ費用が発生しているわけではありません。
荷物を届けた後、帰り荷がなければ空車で戻らなければなりません。
その間にも、
- ドライバーの人件費
- 燃料費
- タイヤ費
- 車両費
- 高速道路料金
- 車両の時間コスト
などが発生しています。
だからこそ、適正原価を考える際には「片道だけの輸送」を見るのではなく、車両が1日どのように動いているのかを見る必要があります。
5.適正原価と物流効率化は対立するものではない
ここは、私たちが今後の物流を考えるうえで非常に大切だと考えている部分です。
適正な運賃を収受することと、物流コストを下げることは、一見すると反対方向の話に見えるかもしれません。
しかし、本来はそうではありません。
第1回検討会資料でも、
十分な賃金が支払われることを前提として、荷主・トラック事業者双方の物流効率化へのインセンティブを損なわない制度とすること
さらに、
物流効率化によるコスト削減を適正原価の算出で適切に評価する仕組み
について検討すべきではないかとされています。
これは重要な考え方です。
100の原価がかかる輸送を、運送会社に無理を求めて90で走らせる。
これは物流効率化ではありません。
一方で、
- 荷待ち時間を減らす。
- 積載率を高める。
- 情報を早く共有する。
- 空車距離を減らす。
- 荷主が帰り便を活用する。
- 運送会社が帰り荷を確保する。
こうした取り組みによって、100かかっていた物流の原価そのものを95にできたとすれば、それは物流全体の生産性向上です。
適正原価制度では、この違いをきちんと区別する必要があります。
6.荷主にとっても他人事ではない
適正原価制度という名称だけを見ると、「運送会社の原価管理の制度」と感じる荷主もいるかもしれません。
しかし、物流は荷主と運送会社の双方で成り立っています。
輸送予定がいつ決まるのか。
積込時間がどの程度かかるのか。
荷待ちが発生しているのか。
附帯業務があるのか。
納品時間が細かく指定されているのか。
帰り便を組み合わせられるのか。
こうした条件によって、同じ距離を運ぶ場合でも実際の原価は変わります。
また改正法では、運送事業者が適正原価を継続的に下回る状況となった場合の法的措置が設けられるほか、荷主等の行為が原因となる場合には、トラック・物流Gメンによる是正指導などにつながる仕組みも示されています。
これからの物流では、荷主側も「運賃はいくらか」だけでなく、
「なぜこの運賃になるのか」
を理解することが、これまで以上に重要になっていくでしょう。
7.8月26日の第2回検討会で確認したいこと
第2回検討会では、
- 全日本トラック協会
- 全日本運輸産業労働組合連合会
- 日本商工会議所
- 全国商工会連合会
- 全国農業協同組合中央会
- 出版文化産業振興財団
運送会社だけではありません。
労働者側、中小企業、農業、出版など、それぞれ物流条件の異なる立場から意見が出されます。
私たちが確認したいのは、特に次の点です。
人件費をどの水準で考えるのか。
実車率をどのように設定するのか。
物流効率化による原価低減をどう評価するのか。
荷待ち時間や附帯業務をどう扱うのか。
委託手数料や多重取引構造をどう整理するのか。
一定期間の適正原価をどのような記録で確認するのか。
そして、荷主と運送会社の双方が実務上運用できる制度になるのか。
第2回検討会では、こうした制度の具体像につながる議論が出てくる可能性があります。
8.年末に向けて制度の方向性が見えてくる
第1回検討会で示された今後の予定では、第2回・第3回を8月から9月に開催し、関係者ヒアリングと個別論点を検討。
10月の第4回で論点整理。
11月の第5回で提言案の骨子。
12月の第6回で提言案を取りまとめる流れが想定されています。
これは現時点での想定であり、必要に応じて検討会が追加される可能性もあります。
つまり2026年後半は、適正原価制度の具体像が急速に見えてくる重要な時期になります。
9.丸共協同株式会社が考えるこれからの物流
私たちは、適正な運賃を確保することは物流を維持するために必要だと考えています。
しかし同時に、適正原価制度が単純な「運賃を上げる制度」だけになってはいけないとも考えています。
必要な原価は正しく認める。
ドライバーに適正な賃金が支払われる。
安全に必要な費用を確保する。
運送会社が将来も車両や人材へ投資できる環境をつくる。
そのうえで、荷主と運送会社が協力して物流の無駄を減らしていく。
これが本来目指すべき姿ではないでしょうか。
帰り便・帰り荷の活用、早めの情報共有、荷待ち時間の削減、積載率の向上。
こうした一つひとつの取り組みが、これからは単なる「効率化」ではなく、物流原価そのものを改善する取り組みとして、より重要になっていくと私たちは考えています。
おわりに
8月26日の第2回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」は、制度の結論を決める会議ではありません。
しかし、第1回で示された制度の骨格に対し、運送側、労働側、荷主側などの現場の意見が本格的に入ってくる最初の重要な検討会です。
「適正原価はいくらになるのか」
だけを見るのではなく、
「どのような物流を社会として維持していくのか」
という視点から、今後の議論を見ていく必要があります。
丸共協同株式会社では、8月26日の第2回検討会資料が公開され次第、その内容を確認し、今回取り上げた論点がどのように議論されたのかを改めてお伝えしていきます。
FAQ
Q1.適正原価は最低運賃という意味ですか?
完全に同じ意味ではありません。適正原価は、貨物自動車運送事業を適正に運営するために最低限必要となる「原価」です。実際に収受すべき運賃については、適正原価に適正な利潤を加えた水準になるという考え方が第1回資料で示されています。
Q2.適正原価は1件ごとの運送に適用されますか?
第1回資料では、個別契約で一度適正原価を下回っただけで直ちに違法になるのではなく、一定期間にわたり継続して下回る状態が問題になるという考え方が示されています。
Q3.帰り荷を確保すると適正原価は下がるのでしょうか?
具体的な算定方法はまだ決まっていません。ただし第1回資料では、物流効率化によるコスト削減を適正原価の算出に適切に評価する仕組みを検討する考え方が示されています。空車距離の削減や実車率の改善がどのように扱われるかは、今後注目すべき論点です。
Q4.荷主にも関係がありますか?
関係します。運送条件や荷待ち時間、附帯業務、情報提供のタイミングなどは運送原価に影響します。今後は荷主と運送会社の双方が物流条件と原価の関係を理解することがより重要になると考えられます。
参考資料
国土交通省「適正原価の設定に向けた有識者検討会」
国土交通省「第1回適正原価の設定に向けた有識者検討会」配布資料
国土交通省「適正原価の設定に向けた論点提示」
国土交通省「今後の検討の進め方(想定)」
国土交通省「第2回『適正原価の設定に向けた有識者検討会』を開催します」2026年8月24日
LOGISTICS TODAY「国交省、適正原価巡り荷主・運送側ヒアリングへ」
