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軽油カルテル事件から考える「適正価格」と「価格協調」の違い 物流業界と適正原価

2026.09.16
適正価格を求めることイメージ

適正な価格を求めることと、価格を合わせることは違う

― 軽油カルテル事件から考える、物流業界の「適正価格」と「競争」の境界線 ―

2026年9月3日、運送業者などに法人契約で販売する軽油の価格をめぐり、独占禁止法違反の罪に問われた石油販売会社5社の初公判が東京地裁で開かれ、5社はいずれも起訴内容を認めたと報じられました。

物流業界にとって、軽油は単なる仕入商品の一つではありません。

トラックを動かすために欠かせない燃料であり、その価格は運送原価に直結します。

軽油価格が上がれば運送会社のコストが上がり、その影響は運賃、荷主企業の物流費、そして最終的には商品やサービスの価格へとつながる可能性があります。

一方、トラック運送業界では現在、「適正原価」という新しい制度の具体化に向けた議論が進められています。

ここで、これから物流に関わる私たちが理解しておきたいことがあります。

「適正な価格を求めること」と、

「競争する企業同士で価格を合わせること」は、

同じではありません。

今回の軽油カルテル事件は、単なる一つの事件として見るだけでなく、これから物流業界が「適正な価格」とどう向き合っていくのかを考える材料になるのではないでしょうか。

※本稿は2026年9月3日時点で公表されている公正取引委員会、国土交通省、国会資料および報道をもとに整理しています。個別企業を批判することを目的としたものではありません。また、2026年9月3日時点では裁判が継続中であり、有罪判決が確定したものとして記載していません。


この記事で分かること

・軽油カルテル事件で何が問題とされているのか
・軽油価格が物流全体へどのようにつながるのか
・適正原価と価格カルテルは何が違うのか
・同業者間の情報交換で何に注意すべきなのか
・これから運送会社に必要になる価格の考え方


目次

1.軽油カルテル事件で何が起きたのか
2.わずか3か月で450億円を超える市場
3.軽油価格は運送会社だけの問題ではない
4.物流には「適正な価格」が必要である
5.「自分で価格を決める」と「価格を合わせる」は違う
6.適正原価制度はカルテルとは違う
7.情報共有にも注意すべき境界線がある
8.これから必要なのは「他社の価格」より「自社の原価」
9.安さを競う物流から、価値と効率を競う物流へ
10.まとめ


1.軽油カルテル事件で何が起きたのか

公正取引委員会は2026年4月17日、法人向け軽油販売をめぐる価格カルテルについて、

・東日本宇佐美
・ENEOSウイング
・エネクスフリート
・キタセキ
・共栄石油

の5社を独占禁止法違反の疑いで検事総長に告発しました。

公正取引委員会が公表した告発事実によると、5社の従業者は、その他の軽油販売事業者の従業者らとともに、東京都に交渉窓口がある運送業者などへ給油カード等を通じて販売する軽油について、価格に関する合意をしたとされています。

具体的には、

2024年10月
前月から1リットル当たり2円の引き上げを目標とすること

2024年11月
前月価格の維持を目標とし、値下げする場合も仕入価格の値下がり分までに抑えること

2024年12月
前月から1リットル当たり2.5円の引き上げを目標とすること

などが告発事実として公表されています。

そして2026年9月3日の東京地裁初公判で、起訴された5社はいずれも起訴内容を認めたと報じられました。

ただし、ここは慎重に考える必要があります。

「起訴内容を認めた」ということと、

「裁判が終わり、有罪判決が確定した」ということは同じではありません。

本稿では、その点を分けて扱います。


2.わずか3か月で450億円を超える市場

今回の事件を物流の視点から考えるうえで、非常に重要な数字があります。

公正取引委員会は2026年4月22日の記者会見で、今回問題とされた市場について、

2024年10月から12月までの3か月間だけで450億円を超える規模だった

と説明しています。

さらに公正取引委員会は、軽油について「トラック輸送などの物流に不可欠」としたうえで、価格カルテルによる価格上昇は物流コストを増加させ、商品価格の上昇にもつながり得るという認識を示しています。

つまり軽油の価格は、

石油販売会社と運送会社だけの問題ではありません。


3.軽油価格は運送会社だけの問題ではない

物流の流れで考えると、そのつながりが見えてきます。

軽油価格が上昇する

トラックの運行原価が上昇する

運送会社の採算に影響する

適正な運賃への価格転嫁が必要になる

荷主企業の物流費に影響する

商品やサービスの価格にも影響する

もちろん、すべての燃料価格上昇がそのまま商品価格へ転嫁されるわけではありません。

しかし物流は、社会の多くの商品やサービスを支える基盤です。

燃料だけではありません。

ドライバーの人件費。

車両価格。

修繕費。

タイヤ。

保険。

高速道路料金。

車庫。

安全対策。

そして、荷待ちや空車回送によって発生する時間と費用。

さまざまなコストが積み重なって、一つの輸送が成立しています。

だからこそ物流を持続させるためには、

「必要な費用をきちんと価格へ反映する」

という考え方が必要になります。


4.物流には「適正な価格」が必要である

物流業界では長い間、厳しい価格競争が続いてきました。

しかし、どれだけ仕事があっても、運べば運ぶほど赤字になる価格では事業を続けることはできません。

ドライバーの賃金を上げることもできません。

新しいトラックを購入することもできません。

安全設備やDXへ投資することも難しくなります。

そのため、運送会社が自社の原価を正しく把握し、

「この輸送を安全かつ継続的に行うには、これだけの費用が必要です」

と荷主企業へ説明することは、これからますます重要になります。

これは単なる値上げの話ではありません。

物流を持続させるための価格形成の問題です。


5.「自分で価格を決める」と「価格を合わせる」は違う

例えば、ある運送会社が自社の原価を計算したとします。

人件費。

燃料費。

高速道路料金。

車両費。

修繕費。

タイヤ費。

保険料。

管理費。

荷待ち時間。

空車回送。

そして事業継続に必要な利益。

これらを計算した結果、

「この輸送を継続するには10万円必要だ」

と判断したとします。

そして荷主企業に対して、その根拠を説明し、自社の判断として10万円を提示する。

これは自社の経営判断です。

ところが競争関係にある会社同士が、

「来月から10万円以下では受けないようにしよう」

「値上げ幅を5%にそろえよう」

「値下げしても、この金額までにしよう」

と価格について共通の意思を形成すれば、意味が変わります。

公正取引委員会の指針では、事業者団体による価格の決定、維持、引き上げなど、競争を制限する行為は独占禁止法上問題になることが明確に示されています。

重要なのは、

値上げそのものが問題なのではない

ということです。

各企業がそれぞれ自社の原価や経営状況を踏まえて独立して価格を決めることと、

競争する企業同士が価格について合意すること。

この二つを分けて考える必要があります。


6.適正原価制度はカルテルとは違う

ここで重要になるのが、現在検討されている「適正原価」です。

2025年6月4日に国会で成立し、6月11日に公布された「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(令和7年法律第60号)」により、国土交通大臣が「適正原価」を定める制度が設けられることになりました。

この規定は、法律の公布から3年以内に施行されることとされています。

したがって2026年9月3日時点で、

「2028年6月から施行される」と施行日が確定しているわけではありません。

正確には、

「公布から3年以内に施行される」

という段階です。

具体的な制度設計については、国土交通省の「適正原価の設定に向けた有識者検討会」で議論が進められています。

第1回は2026年7月17日、第2回は8月26日に開催されました。

ここで非常に大切なのは、

適正原価は「運送会社同士で運賃を決める仕組み」ではない

ということです。

さらに、

国がすべての実際の取引運賃を一律に決める制度

とも違います。

法律に基づいて国土交通大臣が「適正原価」を設定し、持続可能なトラック運送事業のための基準として機能させようとしている制度です。

競争関係にある民間企業同士が具体的な販売価格を相談することとは、性質が根本的に異なります。


適正原価と価格カルテルの違い

適正原価        価格カルテル
法律に基づく制度       競争事業者間の価格等についての合意
国土交通大臣が基準となる原価を定める       企業同士で価格等を調整する
持続可能な事業環境を目的とする       競争を制限する可能性がある
自社の原価管理・取引の適正化につながる       各社の独立した価格判断を損なう
実際の運賃を一律に固定する制度ではない       価格や値上げ幅などをそろえる行為が問題となり得る

つまり、

「適正原価を知ること」と、

「みんなで同じ価格にすること」は、

まったく違うのです。


7.情報共有にも注意すべき境界線がある

物流業界では、同業者同士が情報交換する機会は少なくありません。

法改正。

交通情報。

災害情報。

安全対策。

人材育成。

車両技術。

DX。

市場環境。

こうした情報を共有すること自体が問題なのではありません。

公正取引委員会も、商品知識、技術動向、経営知識、市場環境、行政動向、社会経済情勢などの客観的な情報を収集・提供する活動には、独占禁止法上特段の問題を生じないものが広く存在するとしています。

しかし注意が必要なのは、

現在または将来の具体的な価格や取引条件などです。

例えば、

「来月はいくらにするのか」

「何%値上げするのか」

「この荷主にはいくらを提示するのか」

「どこまでなら値下げするのか」

といった情報です。

公正取引委員会は、現在または将来の価格など、重要な競争手段について相互の行動を予測可能にするような情報交換について、その内容によっては独占禁止法上問題になり得るとしています。

情報を共有することと、

価格行動を共有すること。

ここにも境界線があります。


8.これから必要なのは「他社の価格」より「自社の原価」

これからの運送会社にとって重要なのは、

「他社はいくらで運んでいるのか」

だけを見ることではないと思います。

それよりも、

「自社はいくらなら、安全に、継続して運べるのか」

を知ることです。

そのためには、

・ドライバー人件費
・燃料費
・高速道路料金
・車両償却費
・修繕費
・タイヤ費
・保険料
・車庫費
・管理費
・荷待ち時間
・荷役時間
・空車回送
・事業継続に必要な利益

などを一つずつ把握していく必要があります。

原価を把握できれば、

「他社も値上げしているから」

ではなく、

「この輸送にはこれだけの費用が必要だから」

と説明できます。

私は、この違いがこれから非常に重要になると考えています。

価格交渉とは、本来、

相手を納得させるために他社の価格を持ち出すことではなく、

自社の価格に根拠を持たせること

なのではないでしょうか。


9.安さを競う物流から、価値と効率を競う物流へ

もちろん、価格競争そのものが悪いわけではありません。

効率化によって原価を下げることは、企業努力です。

共同輸配送。

帰り荷の確保。

積載率の向上。

空車回送の削減。

配車の効率化。

荷待ち時間の短縮。

DX。

こうした工夫によって生産性を高め、原価を下げる。

そして、その成果を荷主企業へ還元する。

これは健全な競争だと思います。

同じ仕事なら、

より効率よく。

より安全に。

より正確に。

より便利に。

そこに企業ごとの工夫が生まれます。

しかし、

必要な費用まで削って安くすることと、

工夫によって安くすることは違います。

また、

適正な価格を求めることと、

競合企業同士で価格を合わせることも違います。

これから物流業界が目指すべきなのは、

「みんなで同じ価格にすること」ではなく、

それぞれの企業が自分たちの原価を把握し、そのうえで技術、サービス、効率、安全、信頼で競争すること

ではないでしょうか。


10.まとめ

今回の軽油カルテル事件から考えたいのは、

「値上げは良いのか、悪いのか」

という単純な話ではありません。

物流を持続させるためには、必要な費用を適切に価格へ反映していくことが必要です。

しかし、その価格は競争企業同士が相談して決めるものではありません。

それぞれの企業が、

自社の原価を知る。

自社で価格を判断する。

取引先へその根拠を説明する。

そして、

安全。

品質。

技術。

サービス。

効率。

信頼。

こうした価値で競争する。

これが、これから求められる「適正な価格」の考え方ではないでしょうか。

2026年、日本のトラック運送業界では「適正原価」の制度設計が進んでいます。

だからこそ今、

「適正な価格を求めること」と
「価格を合わせること」

の違いを理解しておくことには大きな意味があります。

安さだけを競う物流から、

根拠のある価格と価値を競う物流へ。

そして、

価格を合わせるのではなく、
知恵と技術と効率を競う物流へ。

今回の事件は、その境界線を改めて考える機会を私たちに与えているのかもしれません。


FAQ

Q1.運送会社が運賃を値上げすること自体は問題なのでしょうか?

値上げすること自体が直ちに独占禁止法違反になるわけではありません。

燃料費、人件費、車両費などの上昇を踏まえ、それぞれの会社が独立して自社の価格を判断し、荷主と交渉することと、競争関係にある企業同士が価格や値上げ幅などについて合意することは分けて考える必要があります。


Q2.同業者と原価について話すこともできないのでしょうか?

すべての情報交換が禁止されているわけではありません。

業界動向、技術、制度、安全対策などの情報交換には問題を生じないものが広く存在します。

ただし、現在または将来の具体的な価格、値上げ幅、個別取引条件など競争上重要な情報については注意が必要です。

個別案件で判断が難しい場合は、公正取引委員会や法律の専門家に確認することが重要です。


Q3.適正原価が決まれば、全国の運賃が同じになるのでしょうか?

そのような制度ではありません。

適正原価は法律に基づいて国土交通大臣が設定する基準であり、実際のすべての運賃を全国一律に固定するものではありません。

具体的な算定方法などは2026年9月3日時点でも有識者検討会で議論中です。


Q4.「トラック適正化二法」とは何ですか?

2025年6月11日に公布された、

「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(令和7年法律第60号)」と、

「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律(令和7年法律第61号)」

の2法を指します。

適正原価制度そのものについて規定しているのは、法律第60号です。


Q5.運送会社は今から何を準備すればよいのでしょうか?

最も基本になるのは、自社の原価を把握することだと考えます。

燃料費だけではなく、人件費、車両費、修繕費、タイヤ費、保険料、高速道路料金、荷待ち時間、荷役時間、空車回送などを把握し、

「自社はいくらなら持続的に運べるのか」

を説明できる状態にしておくことです。

適正原価制度の詳細が決まってから原価管理を始めるのではなく、今から自社の数字を把握しておくことが重要ではないでしょうか。


参考資料

・公正取引委員会「軽油販売業者による価格カルテルに係る告発について」(2026年4月17日)

・公正取引委員会「令和8年4月22日付け 事務総長定例会見記録」

・公正取引委員会「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」

・国土交通省「適正原価の設定に向けた有識者検討会」

・国土交通省「第1回 適正原価の設定に向けた有識者検討会」(2026年7月17日)

・国土交通省「第2回 適正原価の設定に向けた有識者検討会」(2026年8月26日)

・衆議院「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案 審議経過情報」

・共同通信「軽油カルテル、法人5社認める 独禁法違反罪、東京地裁初公判」(2026年9月3日)

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