2035年に造船能力倍増へ 官民1兆円規模の投資から考える日本の物流の未来
2026.09.03
コラム
2035年、造船能力倍増は物流をどう変えるのか
― 官民1兆円規模の投資から考える、日本の物流インフラの未来 ―
2025年12月、日本政府は「造船業再生ロードマップ」を策定し、2035年に向けて日本の造船業を再生する大きな方向性を示しました。
そして2026年8月21日、その実現に向けた動きがさらに具体化しました。
日本造船工業会、日本中小型造船工業会、日本舶用工業会、日本船主協会の海事4団体が国土交通大臣に対し、2035年の船舶建造能力倍増などを実現するための支援を要請したのです。
このニュースを「船をたくさん造ろうとしている」という話だけで見ると、その意味を十分に捉えられません。
造船能力を増やすためには、造船所だけではなく、鉄鋼、機械、舶用部品、クレーン、エネルギー、人材、港湾、そしてそれらを結ぶ物流まで動きます。
さらに、そこで造られた船は、将来の海上輸送力を支えることになります。
つまり今回の動きは、
「船を造るための物流」と
「船によって支えられる物流」
その両方に関係する、日本の物流インフラ再構築の一つと考えることができます。
2035年の目標は「2024年実績から倍増」
国土交通省の「造船業再生ロードマップ」では、2035年の船舶建造能力について、2024年実績から倍増させる目標が示されています。
2024年時点の建造能力は907万総トン。
2035年には1,800万総トンを目標としています。
約10年間で、日本国内で船を造る力を現在のおよそ2倍の水準まで引き上げようとしていることになります。
重要なのは、この目標が今回初めて示されたものではないということです。
政府は2025年12月26日に「造船業再生ロードマップ」を公表しており、今回の海事4団体による要望は、そのロードマップに示された方向性を実現するため、設備投資、部品供給、人材、修繕能力などへの具体的な支援を政府へ求めたものと位置付けられます。
造船所だけを増強すればよいわけではない
今回の要望内容を見ると、対象は非常に幅広いものです。
大型ブロックの共同生産、設備の有効活用、船舶仕様の標準化、鋼材供給、舶用エンジンやプロペラなどの生産能力、船舶修繕、造船用クレーン、AIやロボットを活用した省人化など、造船を支えるさまざまな分野が関係しています。
ここに物流の視点を加えると、さらに見え方が変わります。
造船所には鉄板をはじめ、多くの資材や部品が運び込まれます。
エンジン、電気設備、配管設備、機械類、船舶用機器などを製造する企業から造船所へ物が動きます。
設備投資が進めば、新しい機械やクレーン、建設資材などの輸送も必要になります。
つまり造船能力を増やすということは、その周辺に存在するサプライチェーンにも新しい物流需要を生み出す可能性があります。
造船は海の産業ですが、船が完成するまでには多くの陸上物流に支えられています。
官民1兆円規模の投資を目指す
今回、物流の将来を考える上で特に注目したい数字があります。
国土交通省の関連資料では、「造船業再生ロードマップ」に基づき、2035年までに官民で1兆円規模の投資実現を目指す方針が示されています。
その内容には、
造船企業の資金調達支援
造船能力を抜本的に高める設備・施設への投資
先端技術の研究開発・実証
ゼロエミッション船などに関するグリーン投資
などが含まれています。
造船業再生基金については、令和7年度補正予算で1,200億円が措置され、2026年から2028年をフェーズ1として支援を進める計画です。
さらに、3年ごとの達成状況を確認しながら、10年間で総額3,500億円規模の支援を目指しています。
ここでは、数字の意味を分けて考える必要があります。
1,200億円は、令和7年度補正予算で実際に措置された基金です。
一方、3,500億円は10年間で目指す基金支援の規模です。
そして1兆円は、金融支援、造船能力強化、グリーン投資などを合わせた官民全体の投資目標です。
「1兆円の予算がすでに決まった」という意味ではありません。
しかし、これほど大きな規模で日本の造船産業の再構築が進められようとしていることは、物流業界としても注目しておく価値があります。
LNG運搬船の国内建造再開も動き始めている
もう一つ重要なのがLNG運搬船です。
2026年8月21日には、国土交通省が「LNG運搬船の安定的な供給体制の構築に向けた懇談会」を開催しました。
金子国土交通大臣、日本造船工業会、今治造船、川崎重工業、名村造船所、日本船主協会、荷主であるJERA、さらに内閣官房、内閣府、経済産業省、資源エネルギー庁などが参加しています。
日本は輸入するLNGのすべてを海上輸送に依存しています。
そのため、国内でLNG運搬船を自立的に建造できる体制を確保することは、単なる造船産業の振興ではありません。
エネルギーの安定供給や経済安全保障にもつながります。
懇談会では、国内建造再開に向けて、発注隻数やスケジュール、必要となる設備投資やコストを明らかにし、予算措置を含めた必要な支援や仕組みを具体化していく方針が確認されました。
海上輸送とトラック輸送は競争相手ではない
物流業界では、船舶輸送や鉄道輸送が増えると、
「トラックの仕事が減るのではないか」
と考えられることがあります。
しかし、物流全体から見ると必ずしもそうではありません。
港まで荷物を運ぶ。
港から届け先まで運ぶ。
船では対応しにくい短距離輸送をトラックが担う。
緊急性の高い荷物はトラックで運ぶ。
長距離の幹線輸送では船舶や鉄道を活用する。
それぞれの輸送手段には、それぞれ得意な仕事があります。
重要なのは、トラック、船舶、鉄道のどれか一つだけで物流を考えることではありません。
それぞれを適切につないでいくことです。
これからの物流効率化は「つなぐ」こと
物流の効率化というと、トラックの台数を減らしたり、ドライバーの人数を減らしたりすることだと思われることがあります。
しかし、本来目指すべきなのは、必要な輸送を無理に減らすことではありません。
無駄を減らし、それぞれの輸送手段を効率よく使うことです。
トラックで運ぶべき区間。
船で運ぶ方が効率的な区間。
鉄道を利用できる区間。
そして、それらをつなぐ情報。
これらを物流全体で組み合わせることが重要になります。
今回の造船能力倍増の動きも、同じ視点で見ることができます。
造船所を強くする。
船舶を増やす。
港湾を整備する。
トラック輸送とつなぐ。
鉄道輸送ともつなぐ。
そして物流情報をつなぐ。
日本の物流は、一つの輸送手段だけを改善する時代から、物流全体をつないで効率化する時代へ進んでいるのではないでしょうか。
当社も、その変化の中で、荷主様と輸送を担う側を情報でつなぎ、物流の無駄を減らすために、これからどのような仕組みが必要なのかを考え続けています。
物流会社も「将来どこで荷物が動くか」を見る
今回のニュースから、もう一つ私たちが注目したいことがあります。
それは、物流会社も将来の設備投資や産業政策を見る必要があるということです。
工場が建設されれば物流が生まれます。
データセンターが建設されれば設備や資材が動きます。
高速道路や港湾が整備されれば物流ルートが変わります。
造船所への大型投資が行われれば、その周辺でも資材、機械、部品などが動きます。
物流需要は、ある日突然生まれるわけではありません。
その前には多くの場合、
「計画」
「投資」
「建設」
「生産」
という動きがあります。
だからこそ、現在の荷物だけを見るのではなく、5年後、10年後にどの地域でどの産業が成長し、どこで新しい物流が生まれるのかを見ることも大切だと考えています。
物流会社にとって、将来の産業投資を見ることは、将来の荷物の流れを見ることでもあります。
おわりに
2035年の船舶建造能力倍増。
その数字だけを見ると、物流会社には少し遠いニュースに感じるかもしれません。
しかし、その背景には官民1兆円規模の投資目標があり、造船所、鉄鋼、機械、舶用部品、AI、ロボット、人材、エネルギー、港湾など、多くの産業が関係しています。
そして、その産業をつないでいるのが物流です。
さらに、そこで造られる船は、将来の日本の物流そのものを支える存在になります。
物流の未来を考えるとき、大切なのは「今、何が運ばれているか」だけではありません。
「これから、どこに投資されるのか」
「どこで新しい産業が育つのか」
「その結果、どこで荷物が動き始めるのか」
そこまで見ていくことが、これからの物流には必要ではないでしょうか。
丸共協同株式会社では、これからも物流ニュースだけを見るのではなく、その背景にある産業、投資、制度の変化にも目を向けながら、日本の物流のこれからを考えていきます。
参考資料
・LOGISTICS TODAY「海事4団体、2035年造船能力倍増へ支援要請」
・国土交通省「造船業再生ロードマップ」
・国土交通省「LNG運搬船の安定的な供給体制の構築に向けた懇談会」
― 官民1兆円規模の投資から考える、日本の物流インフラの未来 ―
2025年12月、日本政府は「造船業再生ロードマップ」を策定し、2035年に向けて日本の造船業を再生する大きな方向性を示しました。
そして2026年8月21日、その実現に向けた動きがさらに具体化しました。
日本造船工業会、日本中小型造船工業会、日本舶用工業会、日本船主協会の海事4団体が国土交通大臣に対し、2035年の船舶建造能力倍増などを実現するための支援を要請したのです。
このニュースを「船をたくさん造ろうとしている」という話だけで見ると、その意味を十分に捉えられません。
造船能力を増やすためには、造船所だけではなく、鉄鋼、機械、舶用部品、クレーン、エネルギー、人材、港湾、そしてそれらを結ぶ物流まで動きます。
さらに、そこで造られた船は、将来の海上輸送力を支えることになります。
つまり今回の動きは、
「船を造るための物流」と
「船によって支えられる物流」
その両方に関係する、日本の物流インフラ再構築の一つと考えることができます。
2035年の目標は「2024年実績から倍増」
国土交通省の「造船業再生ロードマップ」では、2035年の船舶建造能力について、2024年実績から倍増させる目標が示されています。
2024年時点の建造能力は907万総トン。
2035年には1,800万総トンを目標としています。
約10年間で、日本国内で船を造る力を現在のおよそ2倍の水準まで引き上げようとしていることになります。
重要なのは、この目標が今回初めて示されたものではないということです。
政府は2025年12月26日に「造船業再生ロードマップ」を公表しており、今回の海事4団体による要望は、そのロードマップに示された方向性を実現するため、設備投資、部品供給、人材、修繕能力などへの具体的な支援を政府へ求めたものと位置付けられます。
造船所だけを増強すればよいわけではない
今回の要望内容を見ると、対象は非常に幅広いものです。
大型ブロックの共同生産、設備の有効活用、船舶仕様の標準化、鋼材供給、舶用エンジンやプロペラなどの生産能力、船舶修繕、造船用クレーン、AIやロボットを活用した省人化など、造船を支えるさまざまな分野が関係しています。
ここに物流の視点を加えると、さらに見え方が変わります。
造船所には鉄板をはじめ、多くの資材や部品が運び込まれます。
エンジン、電気設備、配管設備、機械類、船舶用機器などを製造する企業から造船所へ物が動きます。
設備投資が進めば、新しい機械やクレーン、建設資材などの輸送も必要になります。
つまり造船能力を増やすということは、その周辺に存在するサプライチェーンにも新しい物流需要を生み出す可能性があります。
造船は海の産業ですが、船が完成するまでには多くの陸上物流に支えられています。
官民1兆円規模の投資を目指す
今回、物流の将来を考える上で特に注目したい数字があります。
国土交通省の関連資料では、「造船業再生ロードマップ」に基づき、2035年までに官民で1兆円規模の投資実現を目指す方針が示されています。
その内容には、
造船企業の資金調達支援
造船能力を抜本的に高める設備・施設への投資
先端技術の研究開発・実証
ゼロエミッション船などに関するグリーン投資
などが含まれています。
造船業再生基金については、令和7年度補正予算で1,200億円が措置され、2026年から2028年をフェーズ1として支援を進める計画です。
さらに、3年ごとの達成状況を確認しながら、10年間で総額3,500億円規模の支援を目指しています。
ここでは、数字の意味を分けて考える必要があります。
1,200億円は、令和7年度補正予算で実際に措置された基金です。
一方、3,500億円は10年間で目指す基金支援の規模です。
そして1兆円は、金融支援、造船能力強化、グリーン投資などを合わせた官民全体の投資目標です。
「1兆円の予算がすでに決まった」という意味ではありません。
しかし、これほど大きな規模で日本の造船産業の再構築が進められようとしていることは、物流業界としても注目しておく価値があります。
LNG運搬船の国内建造再開も動き始めている
もう一つ重要なのがLNG運搬船です。
2026年8月21日には、国土交通省が「LNG運搬船の安定的な供給体制の構築に向けた懇談会」を開催しました。
金子国土交通大臣、日本造船工業会、今治造船、川崎重工業、名村造船所、日本船主協会、荷主であるJERA、さらに内閣官房、内閣府、経済産業省、資源エネルギー庁などが参加しています。
日本は輸入するLNGのすべてを海上輸送に依存しています。
そのため、国内でLNG運搬船を自立的に建造できる体制を確保することは、単なる造船産業の振興ではありません。
エネルギーの安定供給や経済安全保障にもつながります。
懇談会では、国内建造再開に向けて、発注隻数やスケジュール、必要となる設備投資やコストを明らかにし、予算措置を含めた必要な支援や仕組みを具体化していく方針が確認されました。
海上輸送とトラック輸送は競争相手ではない
物流業界では、船舶輸送や鉄道輸送が増えると、
「トラックの仕事が減るのではないか」
と考えられることがあります。
しかし、物流全体から見ると必ずしもそうではありません。
港まで荷物を運ぶ。
港から届け先まで運ぶ。
船では対応しにくい短距離輸送をトラックが担う。
緊急性の高い荷物はトラックで運ぶ。
長距離の幹線輸送では船舶や鉄道を活用する。
それぞれの輸送手段には、それぞれ得意な仕事があります。
重要なのは、トラック、船舶、鉄道のどれか一つだけで物流を考えることではありません。
それぞれを適切につないでいくことです。
これからの物流効率化は「つなぐ」こと
物流の効率化というと、トラックの台数を減らしたり、ドライバーの人数を減らしたりすることだと思われることがあります。
しかし、本来目指すべきなのは、必要な輸送を無理に減らすことではありません。
無駄を減らし、それぞれの輸送手段を効率よく使うことです。
トラックで運ぶべき区間。
船で運ぶ方が効率的な区間。
鉄道を利用できる区間。
そして、それらをつなぐ情報。
これらを物流全体で組み合わせることが重要になります。
今回の造船能力倍増の動きも、同じ視点で見ることができます。
造船所を強くする。
船舶を増やす。
港湾を整備する。
トラック輸送とつなぐ。
鉄道輸送ともつなぐ。
そして物流情報をつなぐ。
日本の物流は、一つの輸送手段だけを改善する時代から、物流全体をつないで効率化する時代へ進んでいるのではないでしょうか。
当社も、その変化の中で、荷主様と輸送を担う側を情報でつなぎ、物流の無駄を減らすために、これからどのような仕組みが必要なのかを考え続けています。
物流会社も「将来どこで荷物が動くか」を見る
今回のニュースから、もう一つ私たちが注目したいことがあります。
それは、物流会社も将来の設備投資や産業政策を見る必要があるということです。
工場が建設されれば物流が生まれます。
データセンターが建設されれば設備や資材が動きます。
高速道路や港湾が整備されれば物流ルートが変わります。
造船所への大型投資が行われれば、その周辺でも資材、機械、部品などが動きます。
物流需要は、ある日突然生まれるわけではありません。
その前には多くの場合、
「計画」
「投資」
「建設」
「生産」
という動きがあります。
だからこそ、現在の荷物だけを見るのではなく、5年後、10年後にどの地域でどの産業が成長し、どこで新しい物流が生まれるのかを見ることも大切だと考えています。
物流会社にとって、将来の産業投資を見ることは、将来の荷物の流れを見ることでもあります。
おわりに
2035年の船舶建造能力倍増。
その数字だけを見ると、物流会社には少し遠いニュースに感じるかもしれません。
しかし、その背景には官民1兆円規模の投資目標があり、造船所、鉄鋼、機械、舶用部品、AI、ロボット、人材、エネルギー、港湾など、多くの産業が関係しています。
そして、その産業をつないでいるのが物流です。
さらに、そこで造られる船は、将来の日本の物流そのものを支える存在になります。
物流の未来を考えるとき、大切なのは「今、何が運ばれているか」だけではありません。
「これから、どこに投資されるのか」
「どこで新しい産業が育つのか」
「その結果、どこで荷物が動き始めるのか」
そこまで見ていくことが、これからの物流には必要ではないでしょうか。
丸共協同株式会社では、これからも物流ニュースだけを見るのではなく、その背景にある産業、投資、制度の変化にも目を向けながら、日本の物流のこれからを考えていきます。
参考資料
・LOGISTICS TODAY「海事4団体、2035年造船能力倍増へ支援要請」
・国土交通省「造船業再生ロードマップ」
・国土交通省「LNG運搬船の安定的な供給体制の構築に向けた懇談会」
