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適正原価は決まってから知るだけでよい?制度設計の議論と意見交換から考える物流の未来

2026.09.01 コラム

適正原価は「決まってから知る」だけでよいのでしょうか

― 制度が決まるまでの議論と意見交換を知ることも、これからの物流には大切です ―

トラック運送業界では現在、「適正原価」の具体的な制度設計に向けた議論が進められています。

適正原価という言葉を聞くと、

「新しい規制が決まった」

「この金額を守らなければならなくなる」

そのように受け止める方もいるかもしれません。

しかし、本稿執筆時点では、適正原価の具体的な算定方法や運用方法など、制度のすべてが確定したわけではありません。

今まさに、

「どのような仕組みにするのか」

「どこまでを原価として考えるのか」

「1運行ごとに考えるのか、それとも一定期間で考えるのか」

「荷主と運送会社、それぞれの立場をどう制度に反映するのか」

といった議論が進められています。

だからこそ今、大切なのは、

「何が決まったのか」

だけを知ることではありません。

「何を決めようとしているのか」

「どのような意見が出ているのか」

「なぜ、その議論が必要になっているのか」

という制度ができるまでの過程を知ることにも、大きな意味があるのではないでしょうか。

今回は、現在進められている「適正原価」の検討を通じて、制度が決まる前の議論を知ることの大切さについて考えます。

この記事で分かること

・適正原価は、具体的な制度設計について現在も議論が続いていること

・国だけで制度を決めるのではなく、運送、労働、商工、農業、出版など、さまざまな関係者から意見を聞いていること

・「1運行ごとに考えるのか」「一定期間で考えるのか」といった重要な論点があること

・制度が決まった後だけではなく、検討の過程を知ることが、これからの物流経営や準備につながること

適正原価の導入は決まっている。しかし具体的な制度設計は検討中

まず、最初に分けて考えておきたいことがあります。

2025年6月、貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律が成立し、同年6月11日に公布されました。

この改正によって、トラック運送事業者が自ら引き受ける貨物の運送などについて、国土交通大臣が定める「適正原価」を継続して下回らないようにする仕組みが導入されることになりました。

この規定は、法律の公布から3年以内に施行されることになっています。

つまり、

「適正原価という仕組みを導入すること」

そのものは法律として決まっています。

一方で、

「適正原価をどのように計算するのか」

「どの地域単位で設定するのか」

「回送をどのように扱うのか」

「帰り荷をどのように考えるのか」

「どの期間で適正原価を下回っているかを判断するのか」

といった具体的な制度設計については、現在も検討が続いています。

ここを分けて理解することが重要です。

2026年7月から本格的な検討が始まった

国土交通省は2026年7月17日、第1回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を開催しました。

検討会では、適正原価の設定に向けて、算定方法や地域差、実車率、委託手数料、多重取引構造、物流効率化との関係など、さまざまな論点が示されています。

そして2026年8月26日には、第2回検討会が開催されました。

第2回で特に注目したいのが、

「関係者へのヒアリング及び個別論点についての検討」

が行われたことです。

ヒアリング資料が公表されたのは、

・全日本トラック協会

・全日本運輸産業労働組合連合会

・日本商工会議所

・全国商工会連合会

・全国農業協同組合中央会

・出版文化産業振興財団

の6団体です。

運送会社だけではありません。

ドライバーなどの労働側。

企業を代表する商工団体。

農業分野。

出版分野。

物流を利用する側、物流を担う側、それぞれ異なる立場から意見が出されています。

ここに、制度ができる過程を見る意味があります。

「国が決めたから従う」だけでは見えないものがある

法律や制度について、私たちはどうしても最終的な結果だけを見がちです。

「新しいルールが決まりました」

「この日から施行されます」

「この方法に変更されます」

決まった後に初めて内容を知り、対応を考えることも少なくありません。

しかし、制度が決まる前には、多くの議論があります。

例えば、

運送会社から見た原価。

ドライバーの賃金。

荷主企業の負担。

地域による運送コストの違い。

長距離輸送と近距離輸送の違い。

空車回送。

帰り荷。

多重下請構造。

物流効率化。

適正な利益。

同じ「適正原価」という制度でも、立場によって見え方は違います。

だからこそ意見交換が行われます。

制度は単純に、

「国が決めたから、この形になった」

というものではありません。

さまざまな関係者から意見が出され、論点が整理され、その中で具体的な制度へ近づいていきます。

その過程を見ることで、

「なぜ、この制度が必要なのか」

「なぜ、この計算方法が検討されているのか」

「なぜ、この部分に反対意見が出ているのか」

まで理解できるようになります。

「1運行ごと」なのか「一定期間」なのか

今回の適正原価を考えるうえで、非常に重要な論点の一つがあります。

それが、

「適正原価を1運行ごとに判断するのか」

それとも、

「一定期間の運賃・料金全体で判断するのか」

という問題です。

物流専門紙の物流ウィークリーは、この点について問題提起をしています。

一般的にトラック運賃は、1回ごとの運送業務に対する対価として考えられます。

一方、現在検討されている制度では、必ずしも一つひとつの運送契約について適正原価以上の運賃であることを求める仕組みにはならない可能性があります。

例えば、

ある運行では原価を下回っている。

別の運行では原価を上回っている。

しかし、一定期間全体では原価を確保できている。

このような場合を、制度としてどう考えるのか。

一つひとつの運行について原価割れを防ぐのか。

それとも事業全体として継続的に原価を確保できていればよいのか。

これは非常に重要な論点です。

物流ウィークリーの記事は、この制度設計について批判的な問題提起をしています。

ここで大切なのは、

「その主張が正しい」

「国の考え方が間違っている」

とすぐに結論を出すことではありません。

「こうした異論が出ている」

ことを知ることです。

そして、

「なぜ、このような異論が出るのか」

を考えることです。

意見が違うことは、悪いことではない

制度をつくる途中では、さまざまな意見が出ます。

運送会社からは、

「これでは現場の原価を十分に反映できない」

という意見が出るかもしれません。

荷主側からは、

「原価がどの程度になるのか分からなければ予算を組みにくい」

という意見が出るかもしれません。

労働側からは、

「ドライバーの賃金改善につながる制度でなければ意味がない」

という考え方が出るでしょう。

農業や出版など、それぞれの業界にも独自の物流事情があります。

意見が違うことは、決して悪いことではありません。

むしろ、

意見が違うからこそ、議論する意味があります。

運送会社の考え方だけを見るのではなく、

荷主の考え方も知る。

行政の考え方も知る。

ドライバー側の考え方も知る。

物流を利用する産業側の事情も知る。

そして、

「なぜ意見が違うのか」

を考える。

その積み重ねによって、より現実に合った制度へ近づいていくのではないでしょうか。

決定前だからこそ、情報には価値がある

制度が決まった後に情報を知ることは、もちろん重要です。

しかし、経営という視点から考えると、

「決まる前に知ること」

にも大きな価値があります。

例えば適正原価について、

「回送の考え方が変わる可能性がある」

「帰り荷の重要性がさらに高まる可能性がある」

「これまで以上に原価を把握する必要がある」

「荷主との運賃交渉の考え方が変わる可能性がある」

と早く分かれば、制度の施行を待たずに準備することができます。

自社の原価は把握できているだろうか。

運賃交渉の根拠となるデータはあるだろうか。

空車回送はどのくらい発生しているだろうか。

帰り荷を確保する方法はあるだろうか。

荷待ちや荷役時間まで含めたコストを把握できているだろうか。

制度が最終決定していなくても、今から考えられることはあります。

情報を知る目的は、

ルール違反をしないためだけではありません。

経営判断を早くするためでもあります。

「決定事項」と「検討中」を分けて見る

制度について情報を受け取る側だけでなく、情報を発信する側にも注意が必要です。

検討会資料に書かれているからといって、

「これで決まりました」

と伝えてしまうのは適切ではありません。

制度に関する情報を見るときには、

「法律として決まっていること」

「現在検討されていること」

「関係者から出ている意見」

「報道機関などから出ている問題提起」

を分けて考える必要があります。

特に今回の適正原価については、第2回検討会の資料や関係団体のヒアリング資料は公開されていますが、本稿執筆時点では議事概要は「後日公表予定」とされています。

まさに今、

制度の完成形を見るのではなく、

制度がつくられている途中を見ている段階なのです。

これから必要なのは「結果を見る力」だけではない

これから物流業界では、さまざまな制度変更や構造変化が続いていきます。

適正原価。

物流効率化。

多重下請構造の是正。

ドライバー不足。

DX。

共同輸配送。

自動運転。

最終的に何が決まったのかを知ることは当然必要です。

しかし、それだけでは十分ではない時代になってきているのかもしれません。

これから大切になるのは、

「今、何について議論されているのか」

を見る力です。

さらに、

「なぜ、その議論が必要になっているのか」

を考える力です。

制度が発表されてから動くのではなく、

議論が始まった段階から情報を集め、

自社への影響を考え、

準備を始める。

その時間差が、将来大きな違いになる可能性があります。

丸共協同株式会社が大切にしたいこと

丸共協同株式会社では、制度が決まった後に、

「こう変わりました」

とお伝えするだけではなく、

制度ができていく途中についても、できる限り分かりやすくお伝えしていきたいと考えています。

行政の考え方。

運送会社様の考え方。

荷主様の考え方。

ドライバーの立場。

物流を利用するさまざまな業界の事情。

すべてが同じ意見になるとは限りません。

だからこそ、議論を見る意味があります。

物流の未来は、

制度が正式に決まった日に突然変わり始めるわけではありません。

その前から議論が始まり、

意見交換が行われ、

少しずつ方向性がつくられていきます。

その変化を早く知る。

なぜ議論されているのかを考える。

自社に何ができるのかを考える。

そして、必要な準備につなげる。

情報を単なるニュースで終わらせず、

次の物流判断につなげていく。

それも、これからの物流に必要なことではないでしょうか。

私たちは今後も、決まった制度だけを見るのではなく、

「物流がどこへ向かおうとしているのか」

その過程にも目を向けながら、物流業界に役立つ情報を発信していきたいと考えています。


参考情報

・国土交通省「適正原価の設定に向けた有識者検討会」

・国土交通省「第1回 適正原価の設定に向けた有識者検討会」(2026年7月17日)

・国土交通省「第2回 適正原価の設定に向けた有識者検討会」(2026年8月26日)

・物流ウィークリー「『適正原価』制度設計に異論『あり』 一運行の運賃無視、既成事実化進む」(2026年8月26日)

※本稿は2026年8月31日時点で公表されている国土交通省資料および関連情報をもとに作成しています。適正原価の具体的な制度設計については今後変更される可能性があります。

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