外国人ドライバーの安全は入国前から 特定技能の研修と受入体制
外国人ドライバーの安全は、入国前から始まる
― 特定技能ドライバーの入国前研修から考える、安全教育と受入体制 ―
2026年8月26日、物流専門メディアのLOGISTICS TODAYは、TDGホールディングスがインドネシアで実施している、外国人ドライバー向けの入国前研修について報じました。
研修では、日本の交通ルールを学ぶ座学だけでなく、乗用車やトラックを使った運転訓練、車両の死角確認、輪留めの指導、エコドライブ講習などが行われています。
ドライバー不足が続く物流業界において、外国人材の受入れは、将来の輸送力を支える選択肢の一つです。
しかし、採用人数を増やすことだけが目的になってはいけません。
日本の道路で安全に運転し、荷主様や職場の仲間と信頼関係を築きながら、長く安心して働ける環境をどのようにつくるのか。
この記事では、TDGホールディングスの入国前研修と国の制度を確認しながら、外国人ドライバーを受け入れる企業に求められる準備について考えます。
なお、制度に関する記述は、2026年8月28日時点で公表されている国土交通省および出入国在留管理庁の資料に基づいています。
入国前から実車で安全を学ぶ
TDGホールディングスが公開した研修は、インドネシアにあるグループ教習所で実施されています。
研修は、健康状態の確認、日本の交通ルールを学ぶ座学、実車による運転訓練、中間評価、最終試験という段階で構成されています。
座学では、車両の通行方法、歩行者の保護、信号や道路標識、交差点や踏切での注意点、適切な車間距離、事故が起きた場合の対応などを学びます。
実技では、車両点検や運転姿勢といった基本動作を確認したうえで、パイロンを使った走行、急ブレーキ、死角を体感する訓練などを行います。
研修の大きな特徴は、乗用車だけでなく、実際のトラック「ISUZU ELF」を使用している点です。
トラックは乗用車よりも死角が広く、車体の大きさや運転感覚も異なります。実車を使って死角を確認し、駐停車時の輪留めの重要性を体験しながら学ぶことは、トラックドライバーとして働くための重要な準備になります。
研修中には評価員が同乗する中間試験があり、最終段階では学科試験と実技試験が行われます。宿題の個別添削や少人数での理解度確認も組み込まれており、知識を伝えるだけでなく、身に付いているかを段階的に確かめる内容となっています。
入国後に初めて日本の交通ルールを知るのではなく、来日前から実際の運転を通じて学ぶ。
この早い段階からの準備に、今回の研修の大きな意味があります。
国の正式名称は「自動車運送業分野」
TDGホールディングスの発表では、「特定技能『物流』外国人ドライバー」という表現が使われています。
一方、国の制度上の正式名称は、特定技能1号の「自動車運送業分野」です。
自動車運送業分野は、トラック、バス、タクシーの運転者を対象としています。2024年3月29日に特定技能制度の対象分野への追加が閣議決定され、同年12月19日の告示施行により、外国人材の受入れが可能となりました。
トラックドライバーとして特定技能1号の在留資格を得るためには、原則として次の要件を満たす必要があります。
- 日本語能力を証明する試験への合格
- 自動車運送業分野特定技能1号評価試験への合格
- 運転する車両区分に応じた、日本の第一種運転免許の取得
特定技能評価試験を受けるためには、試験当日に有効な日本または外国の運転免許を保有している必要があります。
海外に居住している人は、日本語試験と特定技能評価試験に合格して来日した後、トラックドライバーの場合は最長6か月の特定活動期間中に、外国免許からの切替などによって日本の運転免許を取得します。
外国免許からの切替には、免許を取得した国に通算3か月以上滞在していたことを証明する書類なども必要になります。
特定活動期間中に日本の運転免許を取得できなかった場合は、特定技能1号へ移行できず、この特定活動期間を延長することもできません。
したがって、今回紹介された入国前研修を修了することと、日本で職業ドライバーとして乗務できることは同じではありません。
入国前研修は、法令上必要な試験や日本の運転免許に代わるものではなく、安全に働き始めるための準備教育として捉える必要があります。
7,286件という事故件数をどう読むか
TDGホールディングスの発表では、内閣府の「令和7年交通安全白書」をもとに、2024年の外国人運転者による交通事故が7,286件だったと紹介されています。
この数字は、交通安全白書に掲載されている数値と一致しています。
ただし、7,286件は、特定技能ドライバーやトラックドライバーだけを集計した数字ではありません。
外国人運転者が第1当事者となった、一般原動機付自転車以上の交通事故全体の件数です。
交通安全白書によると、この事故件数は2020年の5,441件から2024年には7,286件へ増加しています。
一方、日本の運転免許を保有する外国人も増えており、2020年から2024年の間に約27.3%増加し、2024年末には125万4,522人となっています。
ここで注意したいのは、事故件数だけを見て「外国人は事故を起こしやすい」と結論づけることはできないという点です。
外国人運転者の人数や運転機会が増えれば、事故の総件数も増える可能性があります。また、7,286件には、特定技能ドライバー以外の外国人運転者や、トラック以外の車両による事故も含まれています。
必要なのは、不安をあおることではありません。
数字の対象と母数を正しく理解し、日本と母国の交通ルールの違いをどのように伝え、安全教育へつなげるのかを考えることです。
採用はゴールではなく、受入れの始まり
入国前に日本の交通ルールを学ぶことには、大きな意味があります。
しかし、現地の教習コースと日本の実際の道路では、交通量、道幅、気候、歩行者や自転車の動きなどが異なります。
物流の仕事では、運転技術だけでなく、日常点検、積付け、荷役作業、構内ルール、伝票の確認、荷主様への報告、運行管理者との連絡など、さまざまな対応が求められます。
そのため、安全教育を入国前研修だけで完結させることはできません。
来日後も、次のような教育と支援を継続する必要があります。
- 日本の道路環境に合わせた実地教育
- 日常点検、積付け、荷役作業の安全指導
- 荷主様ごとに異なる構内ルールの説明
- 事故、遅延、車両異常が発生した場合の報告方法
- 物流現場で使う日本語や専門用語の教育
- 運行管理者や指導担当者へ相談できる体制
- 定期的な理解度確認と再教育
採用できた時点をゴールにするのではなく、安全に乗務を続けられる状態をつくることが、本当の受入れです。
安全を支えるのは、情報が伝わる仕組み
交通ルールや作業手順を日本語の文章だけで説明しても、十分に伝わらないことがあります。
これは外国人材だけの問題ではありません。経験の浅い日本人ドライバーに対しても、同じことがいえます。
写真、図、動画、実車での見本、指差し確認などを組み合わせれば、安全手順は理解しやすくなります。
例えば、「徐行してください」と文章で伝えるだけでなく、どの場所で、どの程度まで速度を落とし、何を確認するのかを写真や動画で示す。異常が起きた場合も、誰に、どの順番で、どのように報告するのかを見える形にしておく。
情報を伝えたつもりで終わらせず、相手に正しく伝わったかを確認することが重要です。
また、「分からないことを質問してよい」「異常があればすぐに報告してよい」と感じられる職場づくりも欠かせません。
言葉の違いを本人の注意力だけで補おうとするのではなく、誰が見ても分かりやすい手順に整え、教育した内容と確認結果を記録する。
こうした仕組みは、外国人ドライバーだけでなく、すべてのドライバーの事故防止と教育の標準化につながります。
受入れ事業者にも安全体制が求められる
国土交通省のQ&Aによると、特定技能の外国人トラックドライバーを受け入れる事業者には、次のような要件があります。
- 道路運送法に規定する自動車運送事業(第二種貨物利用運送事業を含む)を経営していること
- 自動車運送業分野特定技能協議会の構成員になること
- 「働きやすい職場認証制度」の認証を受けていること、またはGマーク制度に基づく安全性優良事業所を有していること
つまり、外国人ドライバー本人に資格や安全意識を求めるだけでなく、受け入れる企業側にも、安全管理と職場環境の基盤が求められています。
これは、安全を本人だけの責任にしないという考え方の表れでもあります。
丸共協同株式会社も、Gマーク(安全性優良事業所)の認定を受けています。
ただし、認定を取得すること自体がゴールではありません。日々の安全教育や確認を積み重ね、誰もが安心して働ける職場環境につなげていくことが重要だと考えています。
これまで築いてきた安全管理の基盤を、多様な人材が働ける環境づくりにも活かしていく。
その姿勢が、これから外国人ドライバーを受け入れる企業に求められます。
人手不足を埋めるのではなく、共に物流を支える
外国人ドライバーの採用は、ドライバー不足に対応するための選択肢の一つです。
しかし、外国人材を単に「不足する人数を埋める労働力」として捉えてしまえば、採用後の教育や生活支援、職場への定着が後回しになる可能性があります。
生活環境も交通ルールも異なる国から、日本の物流を支えるために来る人を、どのように迎えるのか。
安全に働ける環境をつくり、仕事に必要な情報を分かりやすく伝え、困ったときに相談できる体制を整える。
それは、外国人材だけを守る取り組みではありません。
荷主様、運送会社様、地域の道路利用者、そして物流に関わるすべての人の安全を守ることにつながります。
国籍にかかわらず、一人ひとりを共に物流を支える仲間として迎えること。
それが、採用した人に長く活躍してもらい、将来の輸送力を支えるための出発点になります。
まとめ
TDGホールディングスが公開した入国前研修は、外国人ドライバーの安全教育を来日後から始めるのではなく、来日前から準備する取り組みです。
実車を使ってトラックの死角や輪留めの重要性を体験し、日本の交通ルールや事故発生時の対応を学ぶことには、大きな意義があります。
一方で、入国前研修を修了しただけで、日本でトラックドライバーとして乗務できるわけではありません。
日本語試験、自動車運送業分野特定技能1号評価試験、運転する車両に応じた日本の第一種運転免許が必要です。来日後も、実際の道路環境や物流現場に合わせた教育を継続しなければなりません。
外国人ドライバーの安全は、入国前から始まります。
そして、その安全を育て続ける責任は、本人だけでなく、受け入れる企業と物流業界にもあります。
人手不足を埋めるための採用から、共に日本の物流を支えるための受入れへ。
これからの物流に必要なのは、人を採用する仕組みだけでなく、一人ひとりが安心して学び、働き、成長できる仕組みではないでしょうか。
よくある質問
Q1.入国前研修を修了すれば、日本でトラックを運転できますか
いいえ。入国前研修とは別に、日本語能力を証明する試験、自動車運送業分野特定技能1号評価試験、運転する車両に応じた日本の第一種運転免許などの要件を満たす必要があります。
Q2.「特定技能物流」は正式な制度名称ですか
国の正式名称は、特定技能1号の「自動車運送業分野」です。「特定技能物流」は、物流分野の外国人ドライバーを分かりやすく示すために、記事や事業者の発表などで使われている表現です。
Q3.外国人運転者による7,286件の事故は、特定技能ドライバーの事故ですか
いいえ。外国人運転者が第1当事者となった一般原動機付自転車以上の交通事故全体であり、特定技能ドライバーや職業ドライバーだけを集計した数字ではありません。
Q4.トラックドライバーの特定活動期間は延長できますか
原則として延長できません。海外から来日するトラックドライバーは、最長6か月の特定活動期間中に日本の運転免許を取得し、特定技能1号への在留資格変更手続きを進める必要があります。
Q5.受入れ事業者には、どのような要件がありますか
自動車運送業分野特定技能協議会への加入に加え、トラック分野では「働きやすい職場認証制度」の認証、またはGマーク認定などが必要です。実際に受け入れる場合は、国土交通省と出入国在留管理庁の最新資料を確認する必要があります。
