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運賃交渉90%でも収受は十分か 適正原価の実効性を考える

2026.09.08 コラム

運賃交渉90%、標準的な運賃の8割以上を収受できたのは35%

― 適正原価を実効性ある制度にするために ―

2026年8月26日、国土交通省は「令和7年度『標準的な運賃』に係る実態調査」の結果を公表しました。

同じ日には、第2回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」も開催されています。

調査によると、運賃交渉を行ったトラック運送事業者は約90%に達しました。

運賃について荷主と話し合う動きが広がっていることは、物流業界にとって前向きな変化です。

しかし、2024年3月に告示された現在の標準的な運賃と比較して、実際に収受している運賃が8割以上だった事業者は約35%にとどまりました。

「運賃について交渉したこと」と「必要な運賃を実際に収受できたこと」は、同じではありません。

これから導入される適正原価を実効性のある制度にするには、原価の水準を定めるだけでなく、交渉、契約、請求、収受、そしてドライバーの待遇改善までを一つの流れとして考える必要があります。

この記事では、国土交通省の一次資料をもとに、今回の調査結果が示している課題と、荷主様・運送会社様が今から準備しておきたいことを考えます。

目次

  1. 今回の調査について
  2. 調査結果から見える4つの数字
  3. 78%は満額収受を意味しない
  4. 標準的な運賃の8割以上を収受できたのは35%
  5. 荷主側の調査から見えること
  6. 運賃値上げを賃上げにつなげた事業者は50%
  7. 適正原価と総体規制
  8. 適正原価を実効性ある制度にするために
  9. まとめ


1. 今回の調査について

国土交通省の調査は、2026年3月9日から27日まで実施されました。

調査対象は、全日本トラック協会の会員事業者約1,200者と、ホワイト物流推進運動において把握された荷主企業約200社です。

すべての運送会社や荷主を対象とした全数調査ではなく、設問によって回答数も異なります。

そのため、各割合が誰の回答をもとに算出されているのかを確認しながら読むことが大切です。

また、国土交通省は、標準的な運賃との乖離率について、今回の調査は過去の調査より回答数が少なく、回答者の地域構成も前年度と大きく異なるため、年度間の単純比較には一定の留保が必要だと説明しています。


2. 調査結果から見える4つの数字

今回の調査結果を考えるうえで、まず押さえておきたいのは次の4つの数字です。

調査項目 結果 読み取れること
運賃交渉を行った事業者 約90% 交渉の場は広がっている
希望額の全額または一部を収受できた事業者 約78% 一定の理解は得られているが、満額収受とは限らない
標準的な運賃の8割以上を収受できた事業者 約35% 標準的な運賃との間には差が残る
運賃値上げを一部でも原資として賃上げした事業者 約50% 運賃改善がすべての事業者で賃上げにつながったわけではない

運賃交渉を行った事業者は、前年度調査の74%から約90%へ増加しました。

運賃について話し合うことが、特別なことではなくなりつつあります。

一方で、数字を並べると、交渉の実施が必要な運賃の収受やドライバーの待遇改善まで、十分につながっていない実態も見えてきます。


3. 78%は満額収受を意味しない

運賃交渉を行った事業者のうち、希望額の全額または一部を収受できた事業者は約78%でした。

その内訳は、希望額を収受できた事業者が約33%、希望額ではないものの一部を収受できた事業者が約45%です。

つまり、「78%の事業者が希望どおりの運賃を収受できた」という意味ではありません。

満額収受と一部収受を分けて考えなければ、運賃交渉の実態を実際より良く捉えてしまう可能性があります。

例えば、原価上昇を補うために10万円の値上げが必要であっても、認められた金額が3万円であれば、残る7万円分は運送会社が負担することになります。

運賃が上がったかどうかだけではなく、必要な原価をどこまで補えたのかを見ることが重要です。


4. 標準的な運賃の8割以上を収受できたのは35%

今回の調査で、特に重く受け止める必要があるのが約35%という数字です。

2024年3月に告示された標準的な運賃と比較して、実際に収受している運賃が8割以上だった事業者は約35%にとどまりました。

運賃交渉を行った事業者は約90%に達しているにもかかわらず、標準的な運賃に近い水準まで収受できた事業者は半数に達していません。

国土交通省の資料に掲載された事業者の声からは、次のような課題が見えてきます。

  • 標準的な運賃と従来の取引価格の差が大きく、交渉が難しい
  • 値上げを求めることで、契約を失う可能性がある
  • 同業他社との価格競争があり、必要な金額を提示しにくい
  • 荷待ちや荷役などの料金について、十分な理解を得にくい

標準的な運賃は、運賃交渉の基準を示す役割を果たしています。

一方で、示された金額が自動的に契約運賃として認められる制度ではありません。

必要な運賃の水準を示すことと、その金額を実際の取引で収受できることの間には、まだ差があります。


5. 荷主側の調査から見えること

今回の荷主側調査は、ホワイト物流推進運動において把握された荷主企業約200社を対象に実施されました。

標準的な運賃を知っていると回答した荷主のうち、名称を知っているだけでなく、金額または原価計算の方法を把握している企業は72%でした。この設問の回答数は171社です。

また、運送会社から新たな運賃を提示された荷主のうち、「受け入れた」または「一定程度受け入れた」と回答した割合は90%でした。この設問の回答数は130社です。

内訳は、新たな運賃を受け入れた荷主が47%、一定程度受け入れた荷主が43%でした。

ここでも、90%は「提示された運賃を全額受け入れた割合」ではありません。

今回の調査対象では、運賃見直しへの理解が一定程度進んでいることが分かります。

ただし、この結果だけで全国すべての荷主の状況を表していると判断することはできません。

運賃交渉では、値上げを受け入れたかどうかだけでなく、その金額で安全で安定した輸送を続けられるのかまで話し合う必要があります。

運送会社が必要な原価を確保できず、車両やドライバーを維持できなくなれば、荷主様の将来の輸送力確保にも影響します。

適正な運賃は、運送会社だけの問題ではなく、荷主様の安定供給を支えるためにも必要です。


6. 運賃値上げを賃上げにつなげた事業者は50%

運賃値上げを一部でも原資として、ドライバーの賃上げを実施した事業者は約50%でした。前年度調査では約60%でした。

今回の設問に回答した事業者は1,213者です。

運賃が改善しても、燃料費、車両価格、修繕費、タイヤ費、保険料など、賃金以外の費用も上昇しています。

そのため、増えた収入のすべてを賃上げに回せるとは限りません。

しかし、物流を持続させるには、適正な運賃がドライバーの待遇改善、安全教育、車両整備、設備投資へつながる流れをつくる必要があります。

運賃交渉の目的は、単に契約金額を変更することではありません。

必要な人材を確保し、安全に車両を維持し、荷物を安定して運び続けられる環境をつくることにあります。


7. 適正原価と総体規制

2025年6月11日に公布されたトラック適正化二法では、国土交通大臣が定める適正原価を継続的に下回る運賃・料金を制限する仕組みを設けることが定められました。

適正原価に関する規定は、公布の日から3年を超えない範囲内で、政令により定める日に施行されます。

2026年8月29日時点で、具体的な施行日は確定していません。

国土交通省の検討資料では、一件ごとの運送契約を個別に適正原価と比較するのではなく、一定期間に収受した運賃・料金の総額と、適正原価の総額を比較する考え方が示されています。

これは、一般に総体規制と表現される考え方です。

運送には、距離、地域、車種、荷物の条件、待機時間、附帯業務、帰り荷の有無など、さまざまな違いがあります。

一定期間の総額で判断する方法には、多様な取引に対応しやすい利点があります。

一方で、全体の収支だけを見ることで、適正原価を大きく下回る一部の運行が見えにくくなる可能性も考えられます。

制度に柔軟性を持たせながら、どこまで実効性を確保できるのかが、今後の大きな論点になります。

なお、2026年8月時点の検討資料では、適正原価そのものには適正利潤を含めない考え方が示されています。

運送会社が事業を継続するためには、原価を回収するだけでなく、その上に人材確保や将来の設備投資に必要な利益を確保することも重要です。


8. 適正原価を実効性ある制度にするために

適正原価を示すだけで、運送会社の経営が自動的に改善するわけではありません。

制度を実効性のあるものにするためには、荷主様と運送会社様の双方による準備が必要です。

原価の根拠を整理する

燃料費、人件費、車両費、修繕費、タイヤ費、保険料、高速道路料金、管理費など、輸送に必要な費用を継続的に把握します。

前回のコラムで取り上げた空車走行の費用も、忘れてはならない原価です。

荷物を積んでいない区間でも、燃料費、人件費、車両費は発生しています。

運賃と料金を分けて記録する

荷物を運ぶ対価である運賃と、荷待ち、積込み、取卸し、検品などの対価である料金を区別します。

どの作業に、どの程度の時間と費用が発生しているのかを明確にすることが、適正な交渉の出発点になります。

交渉後の収受額まで確認する

交渉を行った日や提示額だけでなく、合意額、契約内容、請求額、実際の入金額まで記録します。

「交渉した」という記録を、「必要な金額を収受できたか」という確認につなげることが重要です。

運賃改善の使い道を見えるようにする

運賃改定によって得た収入を、賃上げ、安全教育、車両整備、設備投資などにどのように活用したのかを整理します。

荷主様にとっても、運賃の見直しが輸送品質や安定供給にどうつながるのかが分かれば、価格だけではない話し合いがしやすくなります。

情報を早くつなぎ、物流の無駄を減らす

適正な運賃を収受することと、物流を効率化することは対立するものではありません。

出荷予定を早く共有する。

荷待ち時間を短くする。

地方行きが決まった時点から帰り荷を探す。

複数の荷物と輸送力を組み合わせる。

荷主様と運送会社様の情報が早くつながれば、空車走行や待機時間を減らし、必要な原価そのものを抑えられる可能性があります。

運賃を一方的に下げるのではなく、無駄を減らした成果を双方で分かち合うことが、これからの物流効率化には必要です。

丸共協同株式会社は、適正な運賃と物流効率化を対立させるのではなく、情報を早く共有し、物流の無駄を減らすことによって両立させることが大切だと考えています。

よくある質問

Q1. 運賃交渉を行った90%の事業者は、希望額を収受できたのでしょうか

いいえ。

交渉後に希望額を収受できた事業者は約33%、希望額ではないものの一部を収受できた事業者は約45%です。約78%という数字は両者を合わせた割合です。

Q2. 標準的な運賃には法的な強制力がありますか

標準的な運賃は、運賃交渉の参考となる水準を示す制度です。示された金額が、自動的に契約運賃になるものではありません。

Q3. 適正原価には会社の利益も含まれますか

2026年8月時点の国土交通省の検討資料では、適正原価そのものには適正利潤を含めない考え方が示されています。

ただし、モデル運賃を設定する場合には、適正原価に適正利潤を加える考え方も示されています。制度の詳細は今後の検討で決まります。

Q4. 運送会社は制度開始までに何を準備すればよいですか

自社の輸送原価を把握し、運賃と料金を区別することが重要です。

加えて、交渉日、提示額、合意額、請求額、入金額、荷待ち時間、附帯業務などを記録しておくことが、今後の説明や交渉に役立ちます。

9. まとめ

運賃交渉を行ったトラック運送事業者が約90%に達したことは、物流業界にとって前向きな変化です。

しかし、希望額を収受できた事業者は約33%であり、標準的な運賃の8割以上を収受できた事業者も約35%にとどまっています。

また、運賃値上げを一部でも原資として、ドライバーの賃上げを実施した事業者は約50%でした。

大切なのは、運賃交渉を行ったかどうかだけではありません。

必要な原価を根拠を持って説明できたか。

合意した運賃を実際に収受できたか。

その収入を人材、安全、車両、将来の投資につなげられたか。

ここまで確認して初めて、運賃交渉が物流の持続可能性につながったといえます。

適正原価を実効性のある制度にするために必要なのは、規制の強さだけではありません。

荷主様と運送会社様が原価や作業内容を共有し、交渉から収受、現場の改善まで情報をつなぐことです。

価格だけでなく、信頼と情報で物流を支える。

その積み重ねが、必要な輸送力を将来へ残すことにつながるのではないでしょうか。

参考資料

一次資料

 

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