8月貿易赤字1兆1056億円 上旬黒字からなぜ赤字へ?景気と物流から考える
8月の貿易赤字は1兆1,056億円 上旬は黒字だったのになぜ赤字へ変わったのか
景気の力強さ、原油高、円安から物流の「金額と物量」を考える
2026年9月16日、財務省が8月分の貿易統計速報を公表しました。
輸出額は10兆484億円で前年同月比19.3%増、輸入額は11兆1,540億円で28.0%増となり、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は1兆1,056億円の赤字となりました。
前年2025年8月の貿易赤字は2,941億円でした。
つまり、2026年8月の赤字額は前年同月の約3.8倍に拡大したことになります。
しかし今回、丸共協同株式会社が注目したいのは「1兆1,056億円の赤字」という結果だけではありません。
8月1日から10日までの上旬だけを見ると、日本の貿易収支は2,173億円の黒字だったからです。
上旬は黒字だったにもかかわらず、なぜ月全体では1兆円を超える赤字になったのでしょうか。
今回は、貿易統計を景気、原油価格、円安、貨物量、物流コストという視点から考えてみます。
8月上旬は2,173億円の黒字だった
財務省は月間の貿易統計だけでなく、上旬、上中旬についても速報を公表しています。
2026年8月の推移を整理すると次のようになります。
| 期間 | 輸出 | 輸入 | 貿易収支 |
|---|---|---|---|
| 8月1日から10日 | 約3兆6,786億円 | 約3兆4,613億円 | +2,173億円 |
| 8月1日から20日 | 約6兆504億円 | 約7兆1,699億円 | ▲1兆1,195億円 |
| 8月全体 | 10兆484億円 | 11兆1,540億円 | ▲1兆1,056億円 |
上旬だけを見ると輸出額が輸入額を上回っていました。
ところが20日までの累計では、一転して1兆1,195億円の赤字となっています。
大きく変わったのは8月11日から20日
上中旬の数字から上旬を差し引くと、8月11日から20日の概算は、
輸出 約2兆3,718億円
輸入 約3兆7,086億円
貿易収支 約1兆3,368億円の赤字
となります。
つまり、上旬に2,173億円の黒字だった後、11日から20日の10日間で約1兆3,368億円の輸入超過が発生した計算です。
さらに月間値から1日から20日の数字を差し引くと、21日から31日は約139億円の黒字となります。
今回の月間赤字を決定づけたのは、月末ではなく8月中旬だったことが分かります。
なお、11日から20日、21日から31日の数字は財務省が単独で発表しているものではありません。
上旬、上中旬、月間速報から単純に差し引いて算出した参考値です。
なぜ1兆1,056億円の赤字になったのか
今回の貿易赤字について、「景気が悪いから赤字になった」と一つの理由だけで説明することはできません。
数字上の直接的な理由は、輸出以上に輸入金額が大きく増えたことです。
輸出額は前年同月比19.3%増。
輸入額は28.0%増。
輸出も増えていましたが、それ以上に輸入金額が膨らみました。
特に原粗油、半導体等電子部品、電算機類などの輸入額が増えています。
その背景には、
原油価格の上昇
円安
輸入品価格の上昇
エネルギー調達先の変化
などが重なっています。
景気低迷だけで説明してはいけない
現在の日本経済については、「景気低迷」という言葉だけで説明するのも正確ではありません。
内閣府は2026年8月の月例経済報告で、
「景気は、緩やかに回復しているが、中東情勢や自然災害の影響を注視する必要がある」
と判断しています。
一方、生産は横ばい、企業の業況判断もおおむね横ばいとされ、力強い拡大が続いている状況とも言いにくい状態です。
さらに2026年4月から6月期のGDP2次速報では、実質GDPは前期比0.4%増、年率1.4%増でしたが、実質民間最終消費支出は前期比0.0%でした。
景気全体としては緩やかな回復が続いていても、消費や生産には強い伸びが見られない部分があります。
このような環境では、貿易金額が増加しても、それがそのまま貨物量の大幅な増加を意味するわけではありません。
輸入28.0%増でも、輸入数量は2.7%増
今回の貿易統計で物流業界が特に注目したい数字があります。
輸入金額は前年同月比28.0%増でした。
ところが輸入数量指数は2.7%増です。
輸出も同じ傾向です。
輸出金額は19.3%増。
輸出数量指数は2.5%増。
つまり、
輸出金額 +19.3%
輸出数量 +2.5%
輸入金額 +28.0%
輸入数量 +2.7%
となっています。
金額だけを見ると貿易が大幅に拡大しているように見えます。
しかし、実際に動いている商品の量は金額ほど大きく増えていません。
これは物流業界にとって非常に重要な違いです。
原油を見ると「金額と物量」の違いがさらに分かる
原油では、その違いがより明確です。
2026年8月の原油及び粗油の輸入数量は1,159万4,000キロリットルで、前年同月比3.6%増でした。
一方、輸入額は1兆1,905億円で58.7%増です。
数量は3.6%増。
金額は58.7%増。
これほど大きな差があります。
輸入額が大きく増えたからといって、輸入された貨物量が同じ割合で増えたわけではありません。
物流業界に置き換えれば、荷物の価格が高くなっても、必要なトラック台数が同じ割合で増えるとは限らないということです。
円安も輸入額を押し上げた
為替も重要です。
2026年8月の税関長公示レートの平均は1ドル160.64円でした。
前年2025年8月は147.73円。
前年同月と比べると8.7%の円安です。
例えば100ドルの商品なら、
1ドル147.73円では約1万4,773円。
1ドル160.64円では約1万6,064円。
海外での商品価格が同じでも、円換算した輸入額は増えます。
原油などの商品価格上昇に円安が重なれば、日本の輸入金額はさらに膨らみます。
今回の貿易赤字を見る場合には、
数量
価格
為替
調達先
輸送距離
輸入品目
を分けて考える必要があります。
米国からの原油輸入が大きく増加
2026年8月には、原油の調達先にも大きな変化がありました。
米国からの原油及び粗油の輸入数量は約365万9,000キロリットル。
前年同月比603.5%増で、前年の約7倍となりました。
輸入額は約4,005億円で、前年同月比1,026.6%増です。
一方、中東からの原油及び粗油の輸入数量は約725万5,000キロリットルで、前年同月比30.9%減少しました。
興味深いのは、中東からの数量が約3割減ったにもかかわらず、輸入金額は約7,294億円で3.7%増加していることです。
ここにも「数量」と「金額」の違いが表れています。
調達先が変われば物流も変わる
原油の調達先変更は、単なる貿易統計上の変化ではありません。
調達先が変われば、
航海距離
船舶の手配
輸送日数
海上運賃
保険
港湾利用
国内在庫
といったサプライチェーン全体にも影響します。
中東から米国へ調達の一部を切り替える場合、輸送距離やリードタイムも変わります。
さらに原油価格が上昇すれば、国内の燃料価格にも影響し、トラック運送会社の輸送原価にもつながります。
景気の力強さに欠ける中でコストが上がる難しさ
企業経営にとって難しいのは、販売数量や貨物量が大幅に増えていない中でもコストが上昇することです。
例えば、
燃料費
電気代
原材料費
人件費
車両価格
保険料
金利
などです。
景気が強く、販売数量や輸送量が大きく伸びていれば、売上増加で一部を吸収できる可能性があります。
しかし物量が大きく増えない中で原価だけが上昇すれば、企業の収益は圧迫されます。
物流業界ではこの影響が特に分かりやすく表れます。
荷物が増えていなくても燃料代は上がる。
人件費も上がる。
トラック価格も上がる。
その結果、
「仕事量は増えていないのに原価だけが上がる」
という状況が起こります。
物流会社は売上と物量を分けて見る必要がある
今回の貿易統計は、運送会社の経営にもそのまま置き換えることができます。
例えば輸送量が減少しても、運賃単価が上がれば売上高だけを見ると大きく変化しないことがあります。
しかし実際の経営では、
何トン運んだのか
何台動いたのか
何キロ走ったのか
燃料はいくら使用したのか
一運行あたりいくら利益が残ったのか
を見る必要があります。
貿易統計で「金額」と「数量」を分けるのと同じです。
運送会社も、
「売上」と「輸送量」
「売上」と「原価」
を分けて考えることが重要になります。
景気が弱い時代ほど帰り便・帰り荷が重要になる
貨物量が大きく伸びにくい環境では、トラックを走らせれば自然に帰り荷が見つかるとは限りません。
往路の仕事があっても復路が空車になれば、
燃料費
高速道路料金
ドライバーの労働時間
車両の減価償却
は発生します。
物量が大きく伸びにくい時代ほど、
「どれだけ多く走るか」
ではなく、
「どれだけ無駄なくつなげるか」
が重要になります。
荷主企業にとっては帰り便を活用することで、既存の輸送力を有効に使える可能性があります。
運送会社にとっても帰り荷を確保できれば、空車走行を減らし、一運行全体の生産性改善につながります。
1兆1,056億円の赤字から物流業界が見るべきもの
今回のニュースの見出しだけを見ると、
「日本の貿易赤字が約4倍に拡大した」
という印象が残ります。
しかし中身を見ると、違う景色が見えてきます。
8月上旬は2,173億円の黒字。
11日から20日に大きな輸入超過。
輸入金額は28.0%増。
輸入数量は2.7%増。
原油輸入数量は3.6%増。
原油輸入金額は58.7%増。
そして前年より8.7%円安。
今回の赤字は、
「日本が大量の商品を輸入するほど景気が良かった」
とも、
「景気が悪いから赤字になった」
とも単純には説明できません。
輸入価格の上昇、原油高、円安、調達先の変化、そして国内外の景気の力強さなどを合わせて考える必要があります。
丸共協同株式会社の考察
物流業界では、2030年問題やドライバー不足が大きなテーマになっています。
しかし、これからもう一つ重要になるのが、
「実際の貨物量はどうなるのか」
という視点ではないでしょうか。
貿易金額や企業売上が伸びていても、実際の貨物量が同じ割合で伸びるとは限りません。
物量が大きく増えない中で燃料費、人件費、車両費などが上昇すれば、運送会社は売上だけを追う経営では難しくなります。
荷主企業についても同じです。
必要な輸送力を確保しながら、
空車走行
待機時間
無駄な中継
過剰な再委託
を減らしていく必要があります。
今回の8月貿易統計は、
「金額が増えたから物流も成長している」
と単純に判断することの危険性を示しています。
金額を見る。
数量を見る。
原価を見る。
そして、実際に何台のトラックが必要なのかを見る。
丸共協同株式会社では、ニュースに出てくる数字そのものだけではなく、
「その数字が物流現場で何を意味するのか」
という視点から、今後も物流について考えていきたいと思います。
よくある質問
2026年8月の日本の貿易赤字はいくらですか?
財務省の速報では、輸出額10兆484億円、輸入額11兆1,540億円で、貿易収支は1兆1,056億円の赤字でした。
前年2025年8月の赤字は2,941億円だったため、赤字額は約3.8倍に拡大しました。
8月上旬は黒字だったのですか?
はい。
8月1日から10日までは約2,173億円の黒字でした。
その後、8月1日から20日までの累計では約1兆1,195億円の赤字へ転換しました。
なぜ上旬の黒字から月間では1兆円を超える赤字になったのですか?
大きな転換点は8月11日から20日です。
上旬と上中旬の公表値から計算すると、この10日間だけで約1兆3,368億円の輸入超過となります。
さらに月間では、原粗油などの輸入価格上昇、円安、輸入品価格の上昇などが輸入金額を押し上げました。
景気低迷が貿易赤字の原因なのですか?
景気の弱さは背景として考える必要がありますが、今回の赤字を景気だけで説明することはできません。
内閣府は2026年8月時点で、日本経済を「緩やかに回復」と判断しています。
一方、生産は横ばいで、実質民間最終消費支出も2026年4月から6月期は前期比0.0%でした。
今回の赤字の直接的な要因は、輸出額の伸び以上に輸入額が増えたことです。
輸入額が28%増えれば、トラック輸送も28%増えるのですか?
そうではありません。
輸入金額は28.0%増ですが、輸入数量指数は2.7%増です。
価格や為替が上昇すれば、物量がほとんど変わらなくても輸入金額は大きく増えることがあります。
物流需要を見る場合には、金額と数量を分けて確認する必要があります。
まとめ
2026年8月の貿易収支は1兆1,056億円の赤字となりました。
しかし本当に重要なのは、赤字額だけではありません。
8月上旬は2,173億円の黒字だったこと。
中旬に大きな輸入超過が発生したこと。
輸入金額が28.0%増えても、輸入数量は2.7%増だったこと。
原油輸入数量が3.6%増なのに、輸入金額は58.7%増えたこと。
政府は景気を「緩やかに回復」と判断している一方、生産や消費には力強さに欠ける部分があること。
物流業界にとって重要なのは、
「いくらの商品が動いたか」
だけではなく、
「実際にどれだけの荷物が動いたか」
を見ることです。
金額ではなく物量を見る。
売上ではなく原価を見る。
そして、一台のトラックをいかに効率よく使うかを考える。
景気の力強さに欠け、物量が大きく伸びにくい時代だからこそ、帰り便や帰り荷を活用し、空車走行を減らすことの重要性はさらに高まるのではないでしょうか。
荷主企業と運送会社の双方が持続できる物流を考える。
8月の貿易統計は、その必要性を改めて考えさせる数字だったと丸共協同株式会社では考えています。
丸共協同株式会社ホームページ
チャーター便、トラック手配、帰り便、スポット輸送など、物流・輸送に関するご相談については丸共協同株式会社ホームページをご覧ください。
https://www.marukyo-group.co.jp/
参考資料
財務省
令和8年8月分貿易統計速報
財務省
令和8年8月上旬分・上中旬分貿易統計速報
財務省
令和8年8月分貿易統計 品別・地域別詳細表
内閣府
月例経済報告 令和8年8月
内閣府 経済社会総合研究所
2026年4月から6月期四半期別GDP速報 2次速報
