AIだけでは物流現場は動かない――三菱重工とNECの提携から考える物流DX
AIだけでは物流現場は動かない――三菱重工とNECの提携から考える物流DX
※本稿は、三菱重工業株式会社、日本電気株式会社および報道機関が公表した情報をもとに、物流現場の視点から丸共協同株式会社が独自に考察したものです。防衛政策について論評するものではありません。
冒頭要約
三菱重工業とNECは2026年9月2日、防衛分野における戦略的提携に向けた覚書を締結しました。
注目すべきなのは、三菱重工業が持つ装備品の開発・製造技術と、NECが持つ指揮統制、通信、クラウド、AIなどの技術を組み合わせようとしている点です。
現実の空間で動くものと、情報を集めて判断を支える技術を一体化する。この考え方は、物流DXにも通じます。
物流においても、システムを導入するだけでトラック手配が完結するわけではありません。荷物、車両、ドライバー、見積もり、契約、運送責任、必要書類などを一つの流れとしてつなぐ必要があります。
本稿では、三菱重工業とNECの提携から、本当の物流DXに必要な条件を考えます。
この記事で分かること
- 三菱重工業とNECが提携する目的
- 現場の技術とAIを組み合わせる重要性
- デジタル化と物流DXの違い
- 配車システムだけではトラック手配が完結しない理由
- 荷主企業と運送会社の双方に必要な仕組み
- 物流会社がDXに取り組む意味
目次
- 三菱重工業とNECが戦略的提携へ
- 注目すべきは「装備」と「情報」の一体化
- この構造は物流業界にも当てはまる
- システムを導入するだけでは物流DXにならない
- トラック手配に必要な3つの要素
- 荷主企業にとっての物流DX
- 運送会社にとっての物流DX
- AIは人に代わるのではなく、判断を支える
- 丸共協同株式会社が考える「不易流行」の物流DX
- よくある質問
- まとめ
1.三菱重工業とNECが戦略的提携へ
三菱重工業株式会社と日本電気株式会社(NEC)は2026年9月2日、防衛分野における戦略的提携に向けた覚書を締結しました。
両社の発表によると、今回の提携では、日本の防衛産業基盤の強化とデータ・AI主権の確立に向けて、作戦計画、指揮統制、無人アセットなどの領域で連携を強化します。
三菱重工業は、戦闘機、艦艇、ミサイル、無人アセットなど、現実の空間で動く装備品の開発・製造に幅広い技術を持っています。
一方のNECは、指揮統制システム、クラウド、通信ネットワーク、ソーナーなど、情報を収集・共有・分析する技術を持っています。
今回の提携は、単にAIを導入するという話ではありません。
現実の空間で動く装備品と、クラウド、データ、通信、AIを一体的に運用しようとしている点に大きな意味があります。
なお、現段階は「戦略的提携に向けた覚書」の締結であり、具体的なシステムの完成、導入先、開発費、実用化時期などが決定したわけではありません。
2.注目すべきは「装備」と「情報」の一体化
どれほど高度な装備品があっても、必要な情報が届かなければ、適切に動かすことはできません。
反対に、優れたAIや情報システムがあっても、現実の空間で動く装備や、現場を理解した人がいなければ成果にはつながりません。
今回の提携で注目すべきなのは、次の二つを結び付けようとしている点です。
- 現実の空間で動く装備品と、長年蓄積された製造技術
- 情報を集め、分析し、判断を支えるデータ・通信・AI技術
これは、製造業や防衛産業だけに限られた話ではありません。
物流業界がこれから本当の意味でDXを進めるうえでも、非常に重要な考え方です。
3.この構造は物流業界にも当てはまる
物流の現場には、トラック、ドライバー、倉庫、荷役設備、荷物があります。
一方、デジタルの世界には、見積もり、配車情報、車番連絡、運行状況、必要書類、チャット、配送履歴などがあります。
物流DXとは、この二つを一つの流れとしてつなぐことです。
システムには荷物を運べません。
また、トラックだけでは、離れた場所にある荷物情報や空き車両の情報を広範囲に共有することはできません。
だからこそ、物流現場とデジタルの双方を理解し、両者をつなぐ役割が必要になります。
荷主企業が運送会社を探すとき、検索画面に多くの会社が表示されれば、それだけでトラック手配が完了するわけではありません。
実際の手配では、次のような条件を確認する必要があります。
- 集荷地と配送先
- 集荷日と納品日時
- 荷物の種類、数量、重量、寸法
- 必要な車種や荷台の条件
- 荷役方法や待機時間
- 高速道路や附帯作業などの条件
- 運送責任と貨物保険
- 緊急時の連絡方法
- 運送会社の対応実績や信頼性
物流は、条件が一つ違うだけでも必要な車両や運賃が変わる仕事です。
単純に荷物情報と車両情報を表示するだけでは、実務は完結しません。
4.システムを導入するだけでは物流DXにならない
電話やFAXで行っていた業務を、メールや入力画面に置き換えることはデジタル化です。
紙を減らし、情報を検索しやすくすることにも大きな価値があります。
しかし、それだけで物流DXが完成するわけではありません。
例えば、荷主企業が配車システムに見積依頼を登録しても、条件に合う運送会社へ情報が届かなければ、車両は確保できません。
多くの運送会社へ情報が届いても、契約相手、運送責任、支払い条件、事故や遅延が発生した場合の対応が不明確であれば、安心して利用することはできません。
入力作業が増え、電話やFAXも残ったままであれば、システムの導入によって、かえって現場の負担が増える場合もあります。
本当の物流DXは、紙や電話を画面に置き換えることではありません。
見積もり、トラック手配、配車、連絡、書類、運行、完了報告までの業務全体を見直し、関係する人たちが動きやすい流れへ変えることです。
5.トラック手配に必要な3つの要素
① 現場を理解する力
チャーター便・貸切便、スポット便、緊急配送などのトラック手配では、毎回同じ条件になるとは限りません。
車種や距離だけでなく、荷物の形状、積み降ろし方法、時間指定、道路状況、納品先のルールなども確認する必要があります。
物流現場を理解せず、入力項目だけを増やしても、正確な見積もりや配車にはつながりません。
② 情報をつなぐ力
荷主企業の荷物情報と運送会社の車両情報が、それぞれ別の場所に保管されているだけでは十分に活用できません。
必要なときに、条件の合う相手へ、必要な情報が正確に届くことが重要です。
さらに、見積もり、配車結果、運行履歴などを継続的に蓄積することで、次のような分析も可能になります。
- どのような条件なら車両を手配しやすいか
- どの地域や時期に空き車両が見つかりにくいか
- どの車種の依頼が多いか
- 見積もりから成約へ進まなかった理由は何か
- 荷主企業と運送会社の双方に、どのような改善が必要か
情報を集めるだけでなく、次の改善に生かすことが物流DXの重要な役割です。
③ 責任を明確にする力
物流マッチングや配車システムを利用するときは、契約と責任の確認も欠かせません。
- 荷主企業は誰と運送契約を結ぶのか
- 実際に荷物を運ぶ運送会社はどこか
- 運賃は誰に支払うのか
- 遅延、破損、事故が発生した場合に誰が対応するのか
- システム運営会社は情報提供だけを行うのか
- 運営会社が運送を引き受けるのか
便利な機能が多くても、責任の所在が分かりにくければ、継続的な利用にはつながりません。
DXを進めるほど、契約、責任、信頼の設計が重要になります。
6.荷主企業にとっての物流DX
荷主企業が「運送会社を探す」「チャーター便を依頼する」「スポット便の見積もりを取りたい」と考えたとき、できるだけ多くの運送会社へ連絡すれば解決するとは限りません。
電話を何件かけても、条件に合う車両が見つからないことがあります。
メールで一斉に問い合わせても、返信の有無や見積条件を整理する作業が必要です。
物流DXによって改善できるのは、連絡手段だけではありません。
- 必要な輸送条件を整理する
- 条件の合う運送会社へ情報を届ける
- 複数の見積もりを比較する
- 配車内容や車番情報を共有する
- 必要書類を案件ごとに管理する
- 依頼から配送完了までの履歴を残す
こうした一連の流れをつなぐことができれば、荷主企業の担当者は、運送会社を探すための時間や確認作業を減らすことができます。
ただし、価格だけで運送会社を選ぶ仕組みにしてしまうと、安全、品質、継続性が損なわれる可能性があります。
運賃だけでなく、対応力、実績、得意な地域や車種なども含めて判断できる仕組みが必要です。
7.運送会社にとっての物流DX
運送会社にとっても、DXは仕事を受けるためだけの仕組みではありません。
自社の車両が戻る地域に合わせて帰り荷を探すことができれば、空車回送を減らし、車両の稼働率を高められる可能性があります。
自社が得意とする地域、車種、荷物、運行条件を適切に伝えられれば、価格だけではなく、会社の特長や対応力によって選ばれやすくなります。
また、電話だけに頼った情報交換では、担当者が不在のときに案件を確認できなかったり、口頭で伝えた条件に認識の違いが生じたりすることがあります。
見積条件、配車内容、必要書類、変更履歴などが案件単位で整理されれば、担当者間の引き継ぎや確認もしやすくなります。
物流DXは、運送会社を価格競争へ追い込むためのものではありません。
自社の強みを適切に伝え、条件の合う荷主企業と継続的につながるための基盤として設計することが重要です。
8.AIは人に代わるのではなく、判断を支える
物流業界でも、AIを使った配車、運賃分析、需要予測などへの期待が高まっています。
AIは、大量の情報から候補を探したり、過去の傾向を分析したりすることを得意としています。
一方で、物流現場には数値だけでは判断できない条件があります。
- 荷物の特徴
- 集荷先や納品先ごとのルール
- ドライバーの経験
- 天候や道路状況
- 突発的な時間変更
- 取引先との信頼関係
- 事故やトラブルが発生した場合の判断
AIが提示した答えを、そのまま現場へ当てはめればよいわけではありません。
AIは人間の代わりにすべてを決める存在ではなく、情報を整理し、より良い判断を支える存在として活用する必要があります。
三菱重工業とNECの提携から読み取れるのも、AIだけを単独で導入するのではなく、現実の装備、運用、情報、判断を一体化するという方向性です。
9.丸共協同株式会社が考える「不易流行」の物流DX
丸共協同株式会社は1982年の創業以来、荷主企業と運送会社の間に立ち、トラック手配や配車に向き合ってきました。
安全性優良事業所であるGマークの認定を受け、物流の安全と信頼を大切にしながら業務に取り組んでいます。
物流の方法や情報技術が変わっても、変えてはいけないものがあります。
それは、約束を守ること、荷物を安全に届けること、相手の立場を考えること、問題が起きたときに責任を持って対応することです。
一方で、電話、FAX、紙を中心とした業務については、より便利で正確な方法へ変えていく必要があります。
信頼と責任は「不易」、デジタル技術やAIの活用は「流行」と考えることができます。
昔から大切にされてきた物流の価値を守りながら、時代に合った方法を取り入れる。
丸共協同株式会社が考える物流DXは、機械に仕事を任せることだけではありません。
人と人との信頼を残したまま、情報をより速く、正確につなぎ、荷主企業と運送会社の双方が動きやすい物流をつくることです。
10.よくある質問
Q1.物流DXと単なるデジタル化は何が違いますか?
紙の配車依頼書をPDFにする、電話連絡をチャットへ変更するといった取り組みはデジタル化です。
物流DXは、見積もり、トラック手配、配車、車番連絡、書類管理、配送完了までの業務全体を見直し、情報をつなぐことで、仕事の流れそのものを改善する取り組みです。
Q2.インターネットで運送会社を探せば、すぐに車両を確保できますか?
登録されている運送会社の数だけで、車両を確保できるとは限りません。
集荷地、配送先、日時、車種、荷物、荷役条件などが一致する必要があります。契約相手、運送責任、貨物保険、支払い条件などの確認も必要です。
運送会社を探す方法だけでなく、輸送条件を正確に整理し、条件に合う会社へ情報を届ける仕組みが重要です。
Q3.チャーター便やスポット便の見積もりには何が必要ですか?
基本的には、集荷地、配送先、希望日時、荷物の種類、数量、重量、寸法、必要な車種、積み降ろし方法などの情報が必要です。
時間指定、待機、附帯作業などの条件がある場合は、見積もりを依頼する段階で伝えることが重要です。
Q4.AIだけでトラックの配車を自動化できますか?
一定の条件に基づく候補抽出や分析は可能ですが、すべての配車をAIだけで判断することは簡単ではありません。
天候、道路状況、荷物の特徴、納品先のルール、突発的な変更など、現場で確認しなければ分からない条件があるためです。
AIと現場担当者が役割を分担することが現実的です。
11.まとめ
三菱重工業とNECの戦略的提携から見えてくるのは、AIの性能だけで社会の仕組みが変わるわけではないということです。
現実の空間で動くもの、現場を知る人、情報をつなぐシステム、判断を支えるAI、そして責任を持つ組織が一体となって、初めて技術は実際の価値になります。
物流業界でも同じです。
トラック手配を画面上で受け付けるだけでは、物流DXとはいえません。
荷主企業が運送会社を探し、見積もりを比較し、安心してチャーター便やスポット便を依頼できること。
運送会社が自社の得意分野を生かし、条件に合った帰り荷とつながること。
さらに、契約と責任を明確にし、配送が完了するまで支えることが必要です。
現場か、デジタルか。
人か、AIか。
どちらか一方を選ぶのではなく、それぞれの強みをつなぐことが、これからの物流DXには求められています。
丸共協同株式会社は、物流現場で積み重ねてきた経験を大切にしながら、荷主企業、運送会社、情報をつなぎ、双方にとって安心して利用できる物流の仕組みを考え続けます。
